現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「あなたには帰る家がある 第二話」感想・レビュー

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 前回、秀明(玉木宏)のフィルモグラフィーから見る人物設定を妄想で書いたところ、結構な反響をいただきまして映画オタクでよかったなあと思った第一回。

 

ikem.hatenadiary.com

 

感想:ごめん玉木宏ダルトン・トランボには謝んなくていいわ!!!

 

 第二回の冒頭、真弓と「ローマの休日」を家族3人で見るシーンがあります。その場面は「THE・地獄」。夫婦の思い出の映画を結婚記念日に娘と見るというなんとも気まずい場面が実現していましたね。しかも秀明側は時間軸的には本日二回目の「ローマの休日」。さすがに私でも厳しいです。「ローマの休日」を1日に二回観賞できる男性はいないと思います。

 さて、「あなかえ」というセンスのない略し方をしていましたが、「あな家」が正式な呼び方みたいですね。とりあえず私も「あな家」と言うことにします。前回の玉木宏のダメ夫ぶりを見てなんでこんなに魅力的なんだろうと思っていたのですが、私たちの根底に玉木宏=のだめの「千秋先輩」がいるからなんでしょうね。

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 オレ様キャラの玉木宏を作り上げたのがフジテレビの「のだめカンタービレ」だったのなら、ダメな男キャラの玉木宏を作ったのもまたフジテレビの「残念な夫」でした。

そして、今クール最大の「浮気初心者の小心者ブラックコメディ」としてかなり面白い走り方をしているのが、「もっと残念な夫」こと、「あなたには帰る家がある」ではないでしょうか。では、あらすじを。

 

あらすじ

 結婚記念日に初めての浮気をしてしまった秀明(玉木宏)は、自分の裏切りがバレないか戦々恐々とする。明らかに態度が豹変したことを不審に思った真弓(中谷美紀)は、秀明が浮気をしているのではないかとネットの「夫の浮気の兆候10選」を見たりして探りをいれる。一方仕事方面では、真弓の担当が太郎(ユースケ・サンタマリア)になり、度重なる強権的な発言に辟易とする。秀明は綾子(木村多江)との一夜が忘れられないものの、結婚記念日を機に思い出した妻への愛も大切にしたい、と真弓と綾子の間で揺れるのだった。

 

秀明のフィルモグラフィーが明らかに!

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一瞬映る秀明の「聖域」

 前回、「大脱走」のコレクターズエディションと通常盤、さらに観賞用と保存用分けている、という妻から夫への愚痴として展開されていた秀明の「聖域」こと映画コーナーが引きの画で初めて公開されました。目につくのはイングリッド・バーグマンのポスター(初回ではタオルをぶん投げられてましたが、さすがにあれは私でもブチ切れます)、アキ・カウリスマキの「ル・アーブルの靴磨き」、キム・ギドクの「嘆きのピエタ」、ちょっと前に話題になった山岳ドキュメンタリー「MERU」など、本当に映画好きなんだな、と思えるフライヤー。その横の棚にはおそらくイングマール・ベルイマンのDVDコレクション(彼の映画にはイングリッド・バーグマンがよく出演しています)、スターウォーズのブルーレイボックス、007のコレクターズエディションという、趣味嗜好はヨーロッパ映画なんだけど、男の子系アクションも忘れていないよ、というラインナップが並んでいます。

 この嗜好から行くと、初回の「フェリーニ大好き」発言や、スペイン映画で好きな映画、「ローマの休日」はあまり好きではない発言などと整合性が取れている気がします。ハリウッドスタジオが作った感動モノよりもカンヌとかヴェネツィア映画祭系の映画の方が好き、つまりアート系映画寄りの映画オタクだということがわかりますね。ちなみに、現在と並行して生きる秀明という面から考えると、綾子が「人魚は捨てられてしまう」という発言を受けた時にかける言葉として「デルトロのシェイプオブウォーターを見なよ」が一番に出てくると思いますが、秀明はあんまりアカデミー賞とか興味ないんだと思います。私だったら、「シェイプオブウォーターではね、半魚人と女の子が結ばれるんだよ」と綾子を慰めます。

 

イタい真弓とダメダメな秀明

 それはさておき。第二回は浮気がバレるのを恐れるあまり取る行動全てが裏目に出るダメダメな秀明と、妻よりも女性として自分を見てもらいたい真弓のある意味での「イタさ」がよく出ていて笑えましたね。あと、ユースケサンタマリア演じる綾子の夫、太郎の鋭い観察眼。初回では秀明の本心を、第二回では真弓の触れられたくない部分を、スナック「蜂」でズケズケ指摘して二人を酔いつぶれさせていました。すごく嫌な人ですが、一番人間を見ているのかもしれません。

 また、秀明がちゃんと真弓を好きでいるのに、浮気してしまう。裏切りたくないし綾子に踏む込む勇気もそこまで持てないのに流されてしまう、そんな「残念な」部分を玉木宏が絶妙に笑えるように演じているので、ドロドロになりがちな浮気モノをブラックなコメディとして気軽に見れるようにしています。

 

作品から漂う薄気味悪さ

 しかし、見ているこっちが笑っている瞬間にサッとその笑顔が凍りつくような怖いセリフを途中途中挟み込んできているのがすごく恐ろしいです。特に、綾子の最後のセリフ、「奥さんなんて言わないでください。たまにでいいので、名前で呼んでください」なんて、後々大変なことになる予感がビンビンにくるセリフじゃないですか。綾子の苦悩がこの言葉に凝縮されているというか。強権的な太郎の「奥さん」という立場に色々な欲望が封じ込められてるんだよ、という絶妙なエロさがこのセリフにあると思います。木村多江にあの表情で言われたら、「奥さんから脱却させてあげたい!」と秀明が思ってしまうのも無理がないような気がします。

 

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 次回は「地獄BBQ」ですね。予告見た瞬間大爆笑しました。なんだよこの構図。こんな風に、シチュエーションからして笑ってしまうんだけど、裏に流れている様々な欲望を意識してみるとかなり怖い、そんなドラマという方向性が第二話で打ち出されたように思います。来週も楽しみですね。