近所にできたTSUTAYAのDVDレンタルが使いづらくてしょうがない。
正確に言えば、「思った場所に借りたい作品がない」のです。
例えば、人間味あふれるドラマでおなじみウディ・アレンの作品を借りようとTSUTAYAに入ったとします。
作品も具体的に、アカデミー賞を受賞したロマンチックコメディ『ミッドナイト・イン・パリ』を借りると決めている。
そこでまず私たちが取る行動と言えば「棚のジャンルを見る」ですよね。
TSUTAYAではおおまかに、
・ドラマ
・アクション
・SF
・コメディ
・ラブストーリー
などのジャンルが振られていて、そこからあいうえお順にDVDが並べられています。
ここで問題になるのが、『ミッドナイト・イン・パリ』はどのジャンルにあるのか?ということ。
コメディの名手ウディ・アレンという肩書きから考えると、そのままコメディに入るべきですが、『ミッドナイト・イン・パリ』はれっきとしたラブストーリー。
そのように予想してラブストーリー棚の「ミ」の列を探しても、見つからない。
「では、コメディだろうか?」と探しても、ない。
ひどい時にはドラマの棚を探してもなくて、冬場に静電気を無差別に放射しまくる検索機械のところまで行って検索をかけると、
「その他のドラマ」というジャンルにあったりする。
「その他ってなんだよ!!」
こんな風に、TSUTAYAが定めた理解不能なジャンル分けに沿って店内を彷徨うハメになることがしばしばあるのです。
おそらくその大きな原因は、
TSUTAYA側のジャンル分けと、私の中のジャンル分けの認識が大きく異なっていること。
機械的に、ジャンルごとに作品を振り分けている店舗によると、『アイアンマン』と『ドクターストレンジ』がSF棚で、『ハルク』はアクション棚というスタン・リーも真っ青な陳列がされていたりします。
もちろん日本全国のTSUTAYAがそうなっているわけではないため、DVDの並びを見ただけでその店舗が映画オタク向けかどうか瞬時にわかってしまうレベルです。
端的に言うと、神レベルの店舗は映画好きの頭の中と棚の並びが一致しているのです。
神店舗SHIBUYA TSUTAYA
その最たる例がSHIBUYA TSUTAYA。
芸能人もよく利用することで有名ですが、レンタル可能な作品数も全国屈指となっていて、「シブツタに置いてなかったらこの世にレンタルは存在しないと思え」とまで言えるほどの作品群を所有しています。
数が多いこともさることながら、最も感動的なのはDVDの並びです。
オーソドックスなジャンル分けはもちろんのことですが、
「監督別」・「国別」・「新人監督」・「注目監督」など、しっかりとカテゴライズされている。
そしてそのチョイスも絶妙で、例えば「日本映画の巨匠」棚を見てみると、
黒澤明・小津安二郎・木下恵介などの鉄板監督の横に、清水宏や実相寺昭雄などの「知ってる人は知ってるけど見たことない」監督の作品もしれっと並べられています。
実はこれが最もかゆいところに手が届いているポイントで、映画オタクの脳内では
日本映画→昭和年代の日本映画→小津・黒澤
という風に階層をつけて作品を理解していることがほとんどです。
つまり、「君たちが今想像してるフォルダの中には、こんな監督もいるんだよ」と理解しやすい形でレコメンドがなされている。
だから例えば、「イランの監督がこの間アカデミー賞外国語映画賞を取ったなあ」と言う思いのもとシブツタをうろつくと、「国別」の棚に行き着き、「イラン」棚を漁る。
そうすると、アッバス・キアロスタミを発見したりするわけです。
そんな風に、レコメンド機能が映画好きのためになされているわけだから、棚を回っているだけでとても楽しく、新しい発見に満ち溢れています。
では、ここで話をNetflixなどの配信サイトのレコメンド機能にまで広げてみましょう。
何を見たらいいのかわからない配信レコメンド
以前、最近映画にハマり始めてNetflixに登録したという友人から、「見れる作品は無限にあって、色々レコメンドされるけど結局何を見たらいいのかわからない」と言われました。
その意味するところは、機械的にジャンル分け陳列を行った店舗をあてもなく回るハメになった冒頭の私と似通っていますよね。
友人が本当に欲している情報は、「どの作品が見れるか」ではなく、「どれが面白くて、その作品をどのように見たら鑑賞体験が最大になるか」です。
例えば、上記は私のNetflixのホーム画面です。
コメディの欄には、
・スイス・アーミー・マン
・南極料理人
・グレムリン
・怪盗グルーのミニオン危機一髪
・夜は短し歩けよ乙女
が並んでいます。
これこそまさに機械分け陳列の最たるものです。
「死体となったダニエル・ラドクリフを駆使して無人島から脱出を図るドラマ」(スイス・アーミー・マン)と、「モグワイというペットが異常繁殖して街がとんでもないことになるファンタジー」(グレムリン)と、「ミニオンが可愛いアニメーション」(怪盗グルー)が混在しているわけで、
「コメディ映画見たいんだー!」と目を輝かせて聞いてきた少年に、こんな無秩序に作品をレコメンドする鬼畜は存在しません。
例えば『グレムリン』を見て感銘を受けた人がいたとしたら、
「監督はジョー・ダンテという人で、続編も作られたんだけど第1作にましてむちゃくちゃだから好き嫌い別れるよ。グレムリンの原案を出したのはクリス・コロンバスっていう『ハリー・ポッター』の初期作を出した人だから、まだ見てなかったらおすすめ。モグワイっていう可愛らしい生物が出てくる映画が気に入ったのなら、レコメンドにある『ミニオン』も……」
のように、その作品のどの部分を気に入ったかによって次に繋がってくる映画も変わってくるのです。
おそらくこのようなレコメンドは、まだAIには代替不可能なのではないでしょうか。
配信によって見ることのできる映画がほぼ無限にまで広がったことで生まれた意外な弊害は、「何を見たらいいのかわからない」ということ。
配信にお客さんを奪われている実店舗が打てる対抗策があるとしたら、こういうアナログな知識なのかもしれません。