現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

『名古屋行き最終列車』の全国人気に見える、テレビの新しいカタチ

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ORICON NEWSに、名古屋テレビ(テレビ朝日系列)が制作しているドラマ『名古屋行き最終列車』を例に出してローカルドラマの存在感がここ最近増してきたという記事が出ました。

『名古屋行き最終列車』も話題、“都落ち”感なくなったローカルドラマの立ち位置の変化 | ORICON NEWS

あえて郊外から名古屋へ向かう列車を舞台として設定することで、その列車に対しての愛着を持っている人たちから絶大な共感を得ることに成功したそう。実際にこの電車が名古屋周辺に住む人々にとって意味するものは大きいらしく、それもまた地域密着型ドラマとして注目を浴びたきっかけになったとか。

『名古屋行き〜』のドラマ単体の考察に関してはORICONの記事に譲りますが、注目すべきは全国ネットでない番組がニュースになるほどの人気を持ったこと。

最近、ネットの見逃し配信が盛んになってきたことで、このようなローカル局の番組が全国的な知名度を誇るようになることも珍しくありません。

有名なのは、千鳥がMCを務める『相席食堂』です。これは関西ローカルの番組ですが、Tverでの見逃し配信を通じて関東の視聴者を獲得しています。

そして、実はこのようなローカルなスタイルが「テレビにとっての新しいビジネスチャンス」を生むのではないかとその価値が再び見直されているのです。

今回は、そんな「古くて新しい」ローカル放送の可能性について見ていきましょう。

 

そもそもローカル局とは?

私たちは特段意識しないで「ローカル局」と口にしていますが、これは実際のところどういう立ち位置のテレビ局なのでしょうか?

代表的なのは、各キー局と協定を結んでいる系列局です。

系列局は名前の響きからするとキー局の子会社のような印象を受けますが、実はそうではありません。

一番わかりやすいのは、フジテレビと関西テレビの関係性でしょう。

関西テレビはフジテレビから番組を買い取って放送していますが、自局での番組制作も行なっており、オリジナルコンテンツの放送もしています。

代表的なのがドラマで、これは火曜9時から放送のドラマをフジテレビが逆に買い取る形で流しています。

つまり、両者は親分ー子分の関係ではなく、対等なビジネスパートナーなのです。

実際地方に行くと、一つのチャンネルの中でフジテレビの番組も日テレの番組もやっていたりしますよね? これはその地方局が両方の局と番組のやりとりをしているからです。

こんな風に、ローカル局は関東のキー局から番組を買ったりはするものの、自社制作の番組を売り込んでいくなどの独自の番組編成権を持っているんですね。

 

ネット放送の恩恵を大きく受ける存在

しかし、ローカル局の経営はここ最近厳しくなっています。

そもそも広告出稿(CM)によって成り立っているのがテレビビジネスですから、地方に行けばいくほど大口の取引先は少なくなっていきます。

ローカル放送で個人商店などの手作り感溢れるCMを見ること、ありますよね。

そんな状況だとやはり収入は少なくなりますし、それが制作費にダイレクトに直結します。

視聴者の数自体も関東地方ほど多くはありませんから番組が届く絶対数も少ないですしね。

 

そこに登場したのが、「Tver」をはじめとするネットの見逃し配信サービスです。

テレビ放送では電波の関係で物理的に見ることができないローカル局の番組も、ネットを介して簡単に見ることができるようになりました。

キー局が打ち出すような最大公約数的な内容ではない、地域に密着した小さな番組はかなり新鮮に映りますよね。

そんなことから一つのローカル局の番組に全国的に「熱狂的なファン」がつく現象が少しずつ出てきました。今回記事になった『名古屋行き最終列車』もその一例でしょう。

実は、この「熱狂的なファン」をゲットしていく番組作りが、今後のテレビ業界を変えていく鍵になると思うのです。

 

テレビがまだ手をつけていない鉱脈

『おっさんずラブ』のインパクトをまだ覚えている方も多いかと思います。

あのドラマは実は業界の方式を逸脱した広がり方をしていて、内容自体もそうですがそちらの意味でも注目が集まっています。

それはファンコミュニティ向けのグッズ展開やイベント開催などで、広告収入以外のところからかなりの収益を得ていることです。

『おっさんずラブ』は視聴率的に見れば、かなり低空飛行の部類に入ります。

しかしその中には視聴率では測ることのできない「熱狂的ファン」が数多くいて、テレビ朝日は彼ら・彼女らに向けて様々なグッズを販売しました。

はるたん日めくりカレンダー、公式シナリオブックなど、ドラマの登場人物をさらに知ることができるようなグッズを数多く制作し、それらを販売することでかなりの放送外収入を稼ぐことができたようです。

数年前の例でいうと、『逃げるは恥だが役に立つ』のDVDはドラマ作品としては異例の売り上げを誇り、その年のTBSの利益の多くが『逃げ恥』関連収益だったという話まであります。

こんな風にCM料以外で収益を得る方法はまだ数多くやられていないものの、当たればその年の会社の業績を変えてしまうくらいのインパクトを持っているのです。

なぜ、今までやられてきていないのか?

それは、このような「ファンコミュニティを形成して収入を得る」手法がどちらかというとテレビではなく、SNSが得意とする分野だからです。

アーティストで例えると、AKBの新曲のタイトルを知っている人は少ないのに、CDは100万枚売り上げていることと同じです。

好きな人たちが個人個人で好きなように盛り上がって、お金を使っていく。この流れは、幅広いマスにリーチ(アプローチ)してCMで収益を得ていくマスメディアの方法論とはかけ離れたところにあります。

テレビは漠然とした大多数であるマスに訴えかけることは大得意でも、個別に深いファンを作っていく掘り下げは不得意なのです。

その原因としては、テレビがツイッターや握手会のように双方向性の娯楽でないことも要因としてあるのですが、それよりもかつてのスタイルを簡単に変えることができなくなってしまった構造の方が大きいでしょう。広告代理店が間に入っていたり、長年取引がある大企業との関係性も微妙になってしまいます。

だからこそ、そこまで大規模なしがらみのないローカル局がこの手法をテレビとして先駆け的にできているのだと思います。

 

この動きが盛り上がっていけば、テレビのビジネス構造自体も変わっていくような大きな流れになっていくはずです。それだけに『名古屋行き最終列車』のニュースは、ローカル局の中に生まれたちょっとしたトピック以上の価値を秘めています。