現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

炎上動画を垂れ流すテレビはただの拡散装置と化す?

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昨今話題の「パンケーキ食べたい」動画。もとい、「バイトテロ」動画の話。

なぜ若者たちがこんな動画を後先考えずにアップしてしまうかとか、これはSNSという可視化ツールがあるから起きたことでこういう行動は若者に限ったことではないとか、そういう話ではない観点から考えてみます。

私がとても気になるのは、これを報じるテレビニュースの姿勢の話です。

私は正直言って、良いこと悪いことどちらにせよ「今、SNSで話題の〜〜」というニュースをテレビでやること自体が「テレビの緩やかな自殺行為」だと考えていて、その印象はこういう炎上系のニュースになると特に強くなります。

それは、こういった動画をテレビで取り上げることが、テレビ視聴者層という非SNS層への拡散行為以外のなにものでもないと思うからです。

つまり、「今、SNSで話題の〜〜」とアナウンサーが笑顔もしくは陰鬱な顔で原稿を読むたびに「テレビがネットのシェアボタンの一つと化していくのではないか」という結構真剣なお話です。

 

動画を流すことの無意味性

この記事の冒頭で、一連の動画のことを「パンケーキ食べたい動画」と呼びましたが、あのバイトくんの動画をテレビが流したことで一番有名になったのは「パンケーキ食べたい」のリズムと振り付けを作った芸人・夢屋まさるだと思います。

彼自身には全く責めを負うところはなくむしろいい迷惑でしょうが、私自身もテレビであの動画を見て「あ、ぐるナイに出てたパンケーキの人ってここまで浸透してるんだ」と知りました。

あの動画を見て印象に残るところなどそれくらいで、おでんを吐き出そうが魚を床に擦り付けようが特に面白みも何もありません。(あれは仲間内でバカをやるために撮影された動画でしょうしそれはある意味当然です)

テレビでアレを見た大多数の人は「バカだな」と一瞬思って終わりか、一番深く考えても「自分のよく行くところでやられてたら嫌だな」とちょっと不安になるくらいがせいぜいでしょう。

何を言いたいかというと、あれをテレビで流すことは社会に対して一ミリも得にならないし、「あ、こういうことしちゃダメなんだな、自分も行動を改めなきゃ」と若者を戒める効果も全くもってありません。あの動画を撮影した彼らがただただ永遠に滑り続けるだけですし、夢屋まさるのギャグが世間に浸透していくだけです。

さらに言えるのは、あの動画がおそらくインスタのストーリーズに掲載されたものだということ。

ストーリーズの動画は1日で消える仕組みになっていて、そこまで深く考えなくても動画を投稿できる気軽なシステムでインスタ利用者に人気です(1日で見れなくなるという軽い気持ちで撮影されたものだからこそあそこまでバカなことをネットに晒せたのでしょう)。

ということは、テレビ局側はわざわざ消えてしまった動画の過去ログをどこかからひっぱり出してきて、それを流していることになります。

もしTwitterに載せていたものだとしても元動画は削除されているでしょうから、やはりどこかから持ってきていることは同じでしょう。

 

確かに若者たちがした行為自体は悪質ですし、なんらかの形で抑止しなければいけないことは確かですが、映像を流すことにどれほどの意味があるでしょうか。

暇な人たちの興味を掻き立てたり、ニュースとしてインパクトを持たせる効果こそあれど、それがなかったからと言って私たちの受け取り方に大きな差は生まれません。

構造としては、若者の悪ふざけ動画を地上波という大規模な電波を使って拡散しているだけであり、フォロワー数の多いツイッターアカウントとやっていることは同じなのです。

 

ネットニュースの焼き直しかSNSの後追いばかりのテレビニュース

最近のワイドショーもしくは夕方のニュースを見ていると、政治関連の話をした後はだいたいが芸能人のゴシップか、「最近SNSで話題の〜」系トピックで占められています。

そのうちのゴシップネタは「芸能人の不倫・相撲取りのスキャンダル・謝罪会見」のどれか一つがほぼ1週間交代制で出現しては消費されていくスタイルになっていて、テレビを点ければワイドショーで誰かが誰かに対して怒って見せてはいるものの振り上げた拳は特に本気な訳でもなく……という不可思議な状況。

さらにSNS関連の話は消費スパンがゴシップよりも高速ですから、テレビが取り上げた頃には話題は別のものに移っていたりする。

そんな事情もあってテレビは最新の流行を紹介する媒体としてはネットに到底勝てなくなってしまったため、専売特許である芸能人のゴシップネタを中心に構成しても、そこにはもっと詳しい記事がネットニュースにあがっていて、テレビでやる情報はだいたいYahoo!に載っている。

 

こんな風に、ネットに速報性においては圧倒的大差をつけられ、情報量でも及ばない。残すものは「古くからある」ということで担保されている信頼性のみ……というかなり危機的な状況がテレビニュースにはあります。

つまり、「ここまでマスが解体された時代に、マスメディアとして何を伝えるべきか」がほぼ宙ぶらりんのままきてしまっているのです。

そんな時にSNSで話題の炎上動画をテレビで放映することは、果たして本当に意味があるのでしょうか。

ネット発の情報を、その図体の大きさを駆使してインパクトを加味して地上波に載せて拡散する。今テレビがやっていることは情報発信ではなく、ただのリツイートです。

スマホ画面の片隅にある一つのボタンくらいの機能しかテレビが持たないならば、人々が離れていって当然だと思います。

制作スタッフたちが時間のない中必死にニュースの素材をかき集めていることは確かにわかるのですが、その元を全てネットに求めてしまうのならば、これからテレビが衰退していく流れは止めようがありません。そもそもネットの一機関的な行為をしてしまっているのですから。

もうここまで情報が溢れ、個別化が進んでしまった時代ですから、テレビは無理してネットの後追いなんかしなくても既に持っている豊かなものを出していけばいいんじゃないかな、と思ったりもします。

という、テレビ業界の片隅からの報告でした。