現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

2018年映画ベストテン

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「カメラを止めるな!」現象や「ボヘミアン・ラプソディ」の大ヒットなど、いつにも増して明るいニュースが多かった2018年の映画界。

そんな中、私が選んだ2018年の映画ベストテンをご紹介します。

 

2018年新作鑑賞本数:100本

(2018年映画鑑賞本数:161本)

 

例年映画館での新作鑑賞本数は70〜80本で収まることが多いのですが、今年は切りがよく100本と多め。新作を見る割合が増えていました。

学生時代は新作旧作含め200数十本見ていたものの、映画の勉強を兼ねて古い作品をレンタルして見ることがほとんど。社会人になってからは仕事終わりに映画館に寄って帰ることが多くなったため当然の増加なのでしょうか。

前置きはここまでにして、2018年鑑賞100本中のベストテン、発表します! 

 

第10位 モリーズゲーム

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「女神の見えざる手」「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステインが主演を務め、トップアスリートからポーカールームの経営者へと転身した実在の女性モリー・ブルームの栄光と転落を描いたドラマ。「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞した名脚本家アーロン・ソーキンが、2014年に刊行されたブルームの回想録をもとに脚色し、初メガホンをとった。モーグルの選手として五輪出場も有望視されていたモリーは試合中の怪我でアスリートの道を断念する。ロースクールへ進学することを考えていた彼女は、その前に1年間の休暇をとろうとロサンゼルスにやってくるが、ウェイトレスのバイトで知り合った人々のつながりから、ハリウッドスターや大企業の経営者が法外な掛け金でポーカーに興じるアンダーグラウンドなポーカーゲームの運営アシスタントをすることになる。その才覚で26歳にして自分のゲームルームを開設するモリーだったが、10年後、FBIに逮捕されてしまう。モリーを担当する弁護士は、打ち合わせを重ねるうちに彼女の意外な素顔を知る。モリーの弁護士役をイドリス・エルバ、父親役をケビン・コスナーがそれぞれ演じる。(映画.com)

「ソーシャル・ネットワーク」や「スティーブ」、「マネーボール」を手がけた、密度の濃い会話劇で有名な脚本家アーロン・ソーキンの初監督作。

元オリンピック候補のスキー選手が怪我と共に引退し、ひょんなことからセレブが集まる賭博場の運営者になる女性モリー・ブルームの実話なのですが、

 

・賭場が次第に違法なものに変わっていった理由

・逮捕後のモリーの裁判の行方

 

この二つを同時並行に描いていき、前者は弁護人への供述という形をとって語られます。

これだけでも一つのサスペンス・ミステリーとして成立する題材ですが、アーロン・ソーキンはさらにここから「父と娘の不協和音」という家族ものの王道のテーマと、「圧倒的な男性優位社会への女性の反抗」という社会派的な大きなテーマをミックスするという荒技をやってのけています。

2017年のオスカーでは「君の名前で僕を呼んで」に脚色賞をもっていかれましたが、セリフ一つ一つに豊かな意味合いやニュアンスがふんだんに盛り込まれている本作の脚本も見事です。

なるべく字幕ではなく英語をリスニングして見るべき作品ですね。

 

また今回が初監督となったアーロン・ソーキンですが、監督した理由が「自分の中のイメージを言葉にすることができなかったから」だそう。

これまでデヴィッド・フィンチャーやダニー・ボイルなどそうそうたる監督たちと仕事をしてきた成果が初監督とは思えないほどの出来栄えを支えているのではないでしょうか。

 

第9位 ブラックパンサー

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2016年公開の「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に初登場した新たなヒーロー、ブラックパンサーを主役に描くアクション映画。アフリカの超文明国ワカンダの若き国王ティ・チャラが、漆黒のスーツと鋭い爪を武器に戦うブラックパンサーとして活躍する。絶大なパワーを秘めた鉱石「ヴィブラニウム」が産出するアフリカの国ワカンダは、その恩恵にあずかり目覚しい発展を遂げてきたが、ヴィブラニウムが悪用されることを防ぐため、代々の国王の下で、世界各国にスパイを放ち、秘密を守り通してきた。父のティ・チャカの死去に伴い、新たな王として即位したティ・チャラは、ワカンダの秘密を狙う元秘密工作員の男エリック・キルモンガーが、武器商人のユリシーズ・クロウと組んで暗躍していることを知り、国を守るために動き始めるが……。主人公ブラックパンサー=ティ・チャラ役はチャドウィック・ボーズマン。監督を「クリード チャンプを継ぐ男」のライアン・クーグラーが務め、同作で主人公クリードを演じたマイケル・B・ジョーダンが、ブラックパンサーを追い詰める強敵エリック役で出演。(映画.com)

第1作の「アイアンマン」以来質の高い映画を送り続けてきたマーベルスタジオですが、「ブラック・パンサー」では初めてのアカデミー賞作品賞ノミネートを見据えています。

前哨戦の結果からしてもほぼ間違いないと見ていいでしょう。

 

監督は「フルーツベール駅で」で注目を集め「クリード」でその手腕を確かなものとしたライアン・クーグラー。アメリカに根強く残る黒人コミュニティへの差別を様々な目線で映画化してきたのですが、スーパーヒーロー映画でもそのスタンスは変わりませんでした。

本作はアフリカ奥地にある隠された王国「ワガンダ共和国」とされていますが、その内実は明らかにアメリカの裏側に強制的に隠されていた黒人社会。

ストーリーも骨太で、部族間の対立という形をとってアメリカにおける黒人の人権運動の歴史を概観しつつ、最後にはこれからのアメリカが世界に果たすべき役割とはなんなのかを国連でのティ・チャラの演説で示します。

「世界が不安定な時、愚者は壁を作り、賢者は橋をかけます」

このセリフはメキシコ国境の壁を作る公約を掲げているトランプ大統領を見据えたものでしょう。

このように、裏側にはかなり重たいテーマを抱えているにも関わらず、アクションは最近の韓国映画を彷彿とさせるような高速ワンカットを採用していたり、ワカンダの超最新技術が007みたいで無駄にかっこよかったりと、エンターテイメントとして見ても格段に面白い。

エンタメと社会性を見事に融合させた素晴らしい作品です。

 

第8位 スリービルボード

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2017年・第74回ベネチア国際映画祭で脚本賞、同年のトロント国際映画祭でも最高賞にあたる観客賞を受賞するなど各国で高い評価を獲得し、第90回アカデミー賞では主演女優賞、助演男優賞の2部門を受賞したドラマ。米ミズーリ州の片田舎の町で、何者かに娘を殺された主婦のミルドレッドが、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、解決しない事件への抗議のために町はずれに巨大な3枚の広告看板を設置する。それを快く思わない警察や住民とミルドレッドの間には埋まらない溝が生まれ、いさかいが絶えなくなる。そして事態は思わぬ方向へと転がっていく。娘のために孤独に奮闘する母親ミルドレッドをフランシス・マクドーマンドが熱演し、自身2度目のアカデミー主演女優賞を受賞。警察署長役のウッディ・ハレルソンと差別主義者の警察官役のサム・ロックウェルがともにアカデミー助演男優賞候補となり、ロックウェルが受賞を果たした。監督は「セブン・サイコパス」「ヒットマンズ・レクイエム」のマーティン・マクドナー。(映画.com)

昨年のアカデミー賞では「シェイプ・オブ・ウォーター」に作品賞をゆずったものの、私的にはこちら推しでした。

娘を殺害され、いまだに犯人が捕まらないことに業を煮やした母親が、その内容を世間に告発する3枚の意見広告を出したことから始まるストーリー。

まったく先の読めない展開はもちろんのこと、先が読めないからこそ誰がどんな人なのかなんて先入観で決めることが一切できないんだ、という当たり前のことを衝撃的な形で示してくれるのが本作。

見た方にはわかるかと思いますが、「オレンジジュース」のシーンは本当に心が痛くなりますよね。

ラストも痛烈で、やり場を完全に失ってしまった怒りをどう向けたらいいのか、矛先は見当違いかもしれないけれどそうする以外にどうしたらいいのかわからない。

結末を観客に託す終わり方でしたが、だからこそ主人公たちの苦悩が伝わってきました。

 

第7位 ブリグズビーベア

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赤ん坊の頃に誘拐され、偽の両親のもとで彼らが制作した教育番組「ブリグズビー・ベア」だけを見て育った25歳の青年が、初めて外界に出たことから巻き起こる騒動を描いたコメディドラマ。外の世界から隔絶された小さなシェルターで、両親と3人だけで暮らす25歳のジェームス。子どもの頃から毎週届く教育ビデオ「ブリグズビー・ベア」を見て育った彼は、現在はその世界の研究に没頭する日々を送っていた。そんなある日、シェルターに警察がやって来て、両親は逮捕されてしまう。これまでジェームスが両親だと思っていた男女は、実は誘拐犯だったのだ。ジェームスは生まれて初めて外の世界に連れ出され、“本当の家族”と一緒に暮らすことになるが……。スタッフ・キャストにはテレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」のチームが集結。ジェームスの育ての父親テッドを「スター・ウォーズ」シリーズのマーク・ハミル、カウンセラーのエミリーを「ロミオ&ジュリエット」のクレア・デーンズがそれぞれ演じる。(映画.com)

私のブログとツイッターのアイコンです。

「カメラを止めるな!」と同時期に公開されたのですが、カメ止めが社会現象になる裏で密かに大盛り上がりしていたのが本作でした。

実はカメ止めともテーマが似通っていて、両者とも「映画に関する映画」なのです。

ブリグズビー・ベアだけを見て育ったジェームスにとって、ブリグズビーはヒーローのような存在。けれどそれを作り出したのは誘拐犯である元・両親。生みの親はブリグズビーの視聴を禁じます。

「それならば自分で作ってしまおう!」と思い立って、警察の押収品にあったブリグズビーの着ぐるみをこっそり拝借して映画を撮影するのです。

「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが本作がまさしくそれで、映画の撮影経験もノウハウもないジェームスが撮影に突き進む原動力は「ブリグズビー・ベアが好きだから」の一点のみ。

「なぜ映画を作るのか?」という問いに対してこれほどまでに純粋な答えを示した映画はないと思います。たとえそれが犯罪者の両親によって与えられた感情だとしても。

 

第6位 アリー/スター誕生

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歌の才能を見いだされた主人公がスターダムを駆け上がっていく姿を描き、1937年の「スタア誕生」を皮切りに、これまでも何度か映画化されてきた物語を、新たにブラッドリー・クーパー監督&レディー・ガガ主演で描く。音楽業界でスターになることを夢見ながらも、自分に自信がなく、周囲からは容姿も否定されるアリーは、小さなバーで細々と歌いながら日々を過ごしていた。そんな彼女はある日、世界的ロックスターのジャクソンに見いだされ、等身大の自分のままでショービジネスの世界に飛び込んでいくが……。世界的歌姫のガガが映画初主演でアリー役を熱演。もともとはクリント・イーストウッドが映画化する予定で進められていた企画で、「アメリカン・スナイパー」でイーストウッドとタッグを組んだクーパーが初監督作としてメガホンをとり、ジャクソン役でガガとともに主演も果たした。(映画.com)

以前ブログにも個別の記事を書きましたが、これほどまでに王道のストーリーなのに感動を与えてくれる作品も稀だと思います。

ある程度の展開予想もできるし、そもそも過去の名作リメイクですから当たり前のことなのですが、私たちの予想した100を200で反響して返してくる圧倒的な物量。

レディ・ガガの歌唱力という最強の武器を手にして、その飛び道具に甘えることなく徹底的にこだわった演出を見せたブラッドリー・クーパーの才能にも驚くばかりです。

 

撮影秘話を聞くとこの映画のとてつもなさがひしひしと伝わってくるのですが、

・本物の熱狂を撮影するためにライブシーンは全て本物のライブに飛び入り参加して歌唱した

・本作のためにブラッドリー・クーパーは3年ほどかけて一からギターと歌唱の特訓をした

 

この2点だけで初監督だったブラッドリー・クーパーの熱意がわかりますよね。

しかも私が一番いいと思うのが、「全員の役者に適切に見せ場を与えている」ところ。

やはり監督が主演もするのだったら、自分をよく見せたいはず。

けれど彼は惜しげもなく自分をフォーカスからぼかして背景にしていましたし、アリー=レディ・ガガという新たなムービースターの誕生のために自らをストーリー上でも演出上でも踏み台に使わせています。

この、「自分の映画のために自分ですら犠牲にする」精神。

映画自体もそうですが、その裏に流れるエピソードもお気に入りの傑作です。

 

 

第5位 レディ・プレイヤー1

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スティーブン・スピルバーグ監督が、アーネスト・クラインによる小説「ゲームウォーズ」を映画化したSFアクション。貧富の格差が激化し、多くの人々が荒廃した街に暮らす2045年。世界中の人々がアクセスするVRの世界「OASIS(オアシス)」に入り、理想の人生を楽しむことが若者たちの唯一の希望だった。そんなある日、オアシスの開発によって巨万の富を築いた大富豪のジェームズ・ハリデーが死去し、オアシスの隠された3つの謎を解明した者に、莫大な遺産とオアシスの運営権を明け渡すというメッセージが発信される。それ以降、世界中の人々が謎解きに躍起になり、17歳の孤独な青年ウェイドもそれに参加していた。そしてある時、謎めいた美女アルテミスと出会ったウェイドは、1つ目の謎を解き明かすことに成功。一躍オアシスの有名人となるが、ハリデーの遺産を狙う巨大企業IOI社の魔の手が迫り……。(映画.com)

今年のスピルバーグは恐ろしい作品を2本生み出しました。第5位は「レディ・プレイヤー1」としてはいますが、気持ち的には「ペンタゴン・ペーパーズ」と合わせてのランクインです。

「1年で2本出す時のスピルバーグは神がかっている」のジンクス通り、本格的なVRと初めて取り扱った映画として大成功しています。

特筆すべきは、「昔のスピルバーグらしさ」と「今のスピルバーグらしさ」が見事に融合している点。

「昔のスピルバーグらしさ」とは、「E.T」とか「ジュラシックパーク」とか、そういう子供の想像力を持ったスピルバーグ映画のことです。

これらの作品の中では、夢を持ちすぎた大人たちがしばしば子供や社会を置いてけぼりにしてしまう負の側面が描かれています。そしてそれは大抵監督であるスピルバーグの投影なのですが、作中でそのことに反省したりする色はほぼ見られません。

対して、「今のスピルバーグらしさ」とは、「シンドラーのリスト」に始まり、「リンカーン」に至るまで続く社会派のスピルバーグ映画のことです。

かつてのような夢や空想に浸る大人から卒業したスピルバーグは、いつの間にか社会自体のあり方や歴史との向き合い方などを映画にするようになりました。

作品群自体は優れたものが多いのですが、その圧倒的な想像力を映画にし続けた初期作品を見ていた私としては少し物足りなさを感じていたのも事実。

 

しかし今回の「レディ・プレイヤー1」においては、初期作品に見られたような世界がVRの世界観と見事にマッチ。そしてさらには空想に行きすぎた大人がどのように生きるべきか?という自己内省のような結末がつけられています。

本作は初めてスピルバーグが自分自身の作品に言及した映画でもあるのです。

詳しくはこちらで書いてるのでぜひご覧ください。

 

第4位 ファントム・スレッド

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「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・トーマス・アンダーソン監督とダニエル・デイ=ルイスが2度目のタッグを組み、1950年代のロンドンを舞台に、有名デザイナーと若いウェイトレスとの究極の愛が描かれる。「マイ・レフトフット」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「リンカーン」で3度のアカデミー主演男優賞を受賞している名優デイ=ルイスが主人公レイノルズ・ウッドコックを演じ、今作をもって俳優業から引退することを表明している。1950年代のロンドンで活躍するオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコックは、英国ファッション界の中心的存在として社交界から脚光を浴びていた。ウェイトレスのアルマとの運命的な出会いを果たしたレイノルズは、アルマをミューズとしてファッションの世界へと迎え入れる。しかし、アルマの存在がレイノルズの整然とした完璧な日常が変化をもたらしていく。第90回アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。(映画.com)

私が世界で最も好きな監督、ポール・トーマス・アンダーソン。通称PTAの最新作です。

仕事に全てを捧げるレイノルズを様々な方法を駆使して妻でありモデルであるアルマが攻略していくお話なのですが、PTAの代名詞である

「何がなんだかよくわからないけど意味はわかるしとてつもない」

シーンが相変わらずふんだんに盛り込まれています。

この「何がなんだか〜」の感覚はPTA作品を見た方でないと伝わらないと思うので一つ超有名な「ミルクシェイクは俺のもの」をご紹介します。

 


I Drink Your Milkshake!

 

いかがでしょうか。

シーンの説明をすると、『かつて自分を辱めたパチモンの宣教師に屈辱を与えるために、「俺のストローは今やこんなに長いから、お前のミルクシェイクも全て飲んでやる」と宣言するシーン』です。

いやわかんねえよ!!

と言うかと思いますが、これが素晴らしいシーンなんですよ。

 

PTAの作品にはこんな風にわけわからんけどものすごいパワーを放ちまくるシーンが毎回出てきて、それがハマる人にはハマるんですね。

今回も例えば、

・カフェのメニューを色っぽく読み上げさせて口説く

・セロリのバター和えで大揉め

・水をコップに注いで脅す

など、「なぜこれがこんなことに?」と圧倒されてしまうシーンが出てきます。

 

もちろんイロモノシーンだけではなく、役者をのめり込ませてしまう演出力だったり、練りに練られた美しすぎるカメラワークだったり、PTAの作品にはひとつひとつ異なる彼の才能が盛り込まれています。

この枠だけでは語りきれないので、今度PTA作品の記事を書きますね。

 

第3位 バッド・ジーニアス 危険な天才たち

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中国で実際に起こったカンニング事件をモチーフに製作されたタイ映画で、同国で大ヒットを記録したクライムエンタテインメント。天才少女を中心とした高校生チームが世界規模のプロジェクトに挑む姿を描いた。小学校、中学校と優秀な成績を収め、その頭脳を見込まれて進学校に特待奨学生として転入を果たした女子高生リン。テストの最中に友人のグレースをある方法で手助けしたリンの噂を耳にしたグレースの彼氏パットは、試験中にリンが答えを教え、代金をもらうというビジネスを持ちかける。さまざまな高度な手段を駆使し、学生たちは試験を攻略。リンの売り上げも増加していった。そして多くの受験生の期待を背に受けたリンたちは、アメリカの大学に留学するため世界各国で行われる大学統一入試「STIC」攻略という巨大な舞台に挑むが……。(映画.com)

タイの社会派サスペンス映画が第3位です。

これも新宿でひっそりと上映されていたものの、席は連日完売になっていた話題作。

一人の天才が友人を助けるためにカンニングのシステムを考案したことが、最終的には国を跨いだ大きなカンニング計画にまで発展していくストーリーです。

「カンニング」というだけで私たちに身近で(身近??)わかりやすい題材ですが、そのやり方もかなり秀逸。主人公のリンがカンニング方を構築するシーンは思わず「なるほど!!!!!!!」と膝を打ちました。

「バレるか?バレないか?」というドキドキが常に漂う演出も素晴らしいのですが、タイの貧富の差という社会的な問題にも同時に切り込んでいった点も特徴。

リンは貧しい家庭からめちゃくちゃ努力した末に進学校に行くのですが、その同級生は勉強を全くしない金持ちの息子や娘ばかり。彼女はそのカンニング技術を彼らに売ることでお金を稼ぐようになります。

金持ちの子供達はそのままエスカレーター式に金持ちの人生を歩むことができるけれど、貧乏に生まれた人たちの境遇はかなり厳しく、上にあがることもままならない。

では、頭脳を磨いて彼らに復讐することができるとしたらどうするか?

まったく読めないストーリーは、期末試験のカンニングから国際的な試験のカンニングまで行き、最終的にはこんな社会的な復讐まで広がっていくのです。

その流れもタイ社会の問題点をピンポイントで突いた上で展開していくため、前知識がなくてもわかりやすく、見た後に爽快感とモヤモヤが残る非常に面白い読後感があります。

 

第2位 バーフバリ 王の凱旋 完全版

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伝説の戦士バーフバリの壮絶な愛と復讐の物語を描いてインド映画史上歴代最高興収を達成し、日本でもロングランヒットを記録したアクション「バーフバリ 伝説誕生」の完結編となる第2作。蛮族カーラケーヤとの戦争に勝利してマヒシュマティ王国の王に指名されたアマレンドラ・バーフバリは、クンタラ王国の王女デーヴァセーナと恋に落ちる。しかし王位継承争いに敗れた従兄弟バラーラデーヴァは邪悪な策略で彼の王座を奪い、バーフバリだけでなく生まれたばかりの息子の命まで奪おうとする。25年後、自らが伝説の王バーフバリの息子であることを知った若者シヴドゥは、マヘンドラ・バーフバリとして暴君バラーラデーヴァに戦いを挑む。監督・脚本のS・S・ラージャマウリや主演のプラバースをはじめ、前作のスタッフやキャストが再結集。(映画.com)

もはや説明不要の「語彙を奪う」エンターテイメント「バーフバリ」。

数えたところ、絶叫上映など含め計5回マヒシュマティ王国に赴いていました。

まさしく今のインド映画の勢いを象徴するかのような勢いと、「細かいことはどうでもいいんだよ!!!」と言わんばかりの豪快なシーンの数々。

「こまごましたことを調整するくらいなら多少の無理を利かせてでもかっこいいシーンを撮る」と製作陣が心に決めているとしか思えないほど、1分に一回はデスクトップの壁紙にしたくなるようなキメ画が飛び込みます。

完全版と謳っている通り、当初公開されていたバージョンではカットされていた歌唱シーンだったりやりとりが復活。

歌唱シーンに関してはそこまでの感動はなかったのですが、やはりカッタッパの「あのシーン」が追加されていたことが一番の見所でしょう。

今年の前半に公開されたことからしばしば忘れられがちな「バーフバリ」ですが、2018年の映画シーンをカレー風味に彩ってくれたことは確かです。

 

第1位 女王陛下のお気に入り

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「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」で注目を集めるギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、18世紀イングランドの王室を舞台に、女王と彼女に仕える2人の女性の入り乱れる愛憎を描いた人間ドラマ。2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員グランプリを受賞し、女王アンを演じたオリビア・コールマンも女優賞を受賞した。18世紀初頭、フランスとの戦争下にあるイングランド。女王アンの幼なじみレディ・サラは、病身で気まぐれな女王を動かし絶大な権力を握っていた。そんな中、没落した貴族の娘でサラの従妹にあたるアビゲイルが宮廷に現れ、サラの働きかけもあり、アン女王の侍女として仕えることになる。サラはアビゲイルを支配下に置くが、一方でアビゲイルは再び貴族の地位に返り咲く機会を狙っていた。戦争をめぐる政治的駆け引きが繰り広げられる中、女王のお気に入りになることでチャンスをつかもうとするアビゲイルだったが……。出演はコールマンのほか、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン、「ナイロビの蜂」のレイチェル・ワイズ、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のニコラス・ホルトほか。(映画.com) 

 日本公開は2月ですが、今年の東京国際映画祭で見てかなり衝撃を受けたのが、ヨルゴス・ランティモスの最新作「女王陛下のお気に入り」。

最も衝撃的だったのがエマ・ストーンのキャラクターです。

宮廷の中でも身分の低い家柄出身のエマ・ストーン演じるアビゲイルは、女王に気に入られて権力を得るためにあの手この手で仕掛けていきます。

その内容は、「裏ラ・ラ・ランド」と言っても過言ではないくらいエマ・ストーンが「ラ・ラ・ランド」でやらなかったことばかり。

裸になるわゲロは吐くわ、果てには◯◯◯はするわ(重要かつとんでもないシーンなのでぜひ劇場でご覧ください)。

彼女の演技の振り幅には驚かされるばかりですし、この演技で今年のアカデミー主演女優賞も獲るのではないかと予想しています。

 

また、注目すべきは監督を務めたギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス。

「ロブスター」でカンヌ映画祭審査員賞を獲ると、続く「聖なる鹿殺し」でも脚本賞を受賞。各作品の内容も、

「ロブスター」は、決められた期限以内に恋人を見つけないと動物に変えられてしまう婚活パーティ会場が舞台。

「聖なる鹿殺し」では、あることで少年に目をつけられた父親が、「家族の誰か一人を殺さないと全員が死ぬ」と脅され苦悩する。

と、キテレツでどうかしている世界観なのですが、それがまたクセになる。

本作ではヨルゴス・ランティモスの世界観と18世紀のイギリス王室の空気感がどハマりしていて、ちょっと小馬鹿にしたような捉え方が痛烈です。

「女王陛下のお気に入り」はすでに賞レースのトップを走っていて、「ヨーロッパの鬼才」くらいに留められていた監督が一気にスター作家へと変貌を遂げるきっかけとなる作品になると思います。

 

というわけで、2018年の映画ベストテンでした。

他にも紹介したい映画はたくさんあるのですが、また別の機会に単体の記事としてアップしたいと思います。

来年はドラマレビューの他に、映画レビューも頻繁に上げていきたいと思いますので、ぜひお付き合いください。