現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

獣になれない私たち 個人的に好きだったシーンをひたすら語る

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これまでドラマの放送に合わせて速報レビュー、考察とアップしてきました。

タイトルが指し示す「獣」とはなんなのか?

深海晶という役はなぜ新垣結衣にしか演じられないのか?

野木さんが京谷のことを「一般的日本男子」と表現したのはなぜか?

などなど。このドラマを見ていて浮かび上がってくる「現代の生きづらさ」、その中でも特に「女性への男性からの無意識の搾取」が大きなテーマとなっていました。

 

しかし、ドラマの楽しみ方はこんな風に小難しい考察だけではないはず。

「あのシーン感動したー!」「あの役者さんのあの仕草が好き!」

「田中圭!!!!田中圭!!!!!!!」

など、難しい考えを通り越した「すごい」とか「よかった」の積み重ねこそがドラマを見る醍醐味だと思います。

というわけで、今回はドラマを見ていて書きたかったのに書けなかった、

「けもなれ好きなシーン語り」をお送りします。

なんとなく厳選したら10個になったので、ランキングっぽくいきますよ!

(※一応順位づけはしますが、全部のシーンが大好きという前提の上でご覧ください)

けもなれ考察はこちら!

 

けもなれ速報レビューはこちら!

第1話 第2話  第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話  第10話

 

第10位  晶、サングラスが邪魔臭い(第1話)

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まずは第1話からの登場です。

なんでも周りに言われるがまま、顔に笑顔が張り付いた状態で心をすり減らしながら働く晶。精神的に限界まで追い込まれて、電車に飛び込もうとさえします。

そんな状態で見かけたのが、呉羽が立ち上げたアパレルブランド「メタモルフォシス」の看板。力強い呉羽の表情を見て、周囲への反抗宣言として「獣」を憑依させようとしてみた晶が出社したのがこの姿です。

社員たちが唖然とする中デスクにつく晶ですが、ちょっとした異変に気づき、顔をしかめて首を何回か振ります。まるで、

なんか、このグラサン見づれえな!!

と言っているかのよう。

「獣」を目指してまずは形から入ってみたものの、なんかサングラス邪魔くさいし性に合わない。そんなことが読み取れる仕草です。

 

第1話が終わった後、ネット上に多く飛び交った言葉として「話が暗い」とか、「リアルすぎてツライ」などの声でした。

正直言えば初回を見た私も同じようなことを思いました。なにせ脚本が「アンナチュラル 」の野木さんで、主演が「逃げ恥」でタッグを組んでいる新垣結衣。

コミカルでスピーディなドラマになるかと予想していたところを、まさかの繊細で濃厚な大人のドラマ。

これはもしかしたら難しい視聴になるかもしれないぞ、そんなことを思っていたのですが、後述するもう一つのシーンと、この晶の仕草で

「あ、これはずっと見よう」

と決めたのでした。

晶の微妙な「邪魔くさい!」の表情だけで、今後の彼女の苦闘ぶりが目に浮かぶようでしたし、単なる暗いドラマではないことがわかったからですね。

 

ちなみに、月刊ドラマに掲載されている第1話のシナリオを見ると、この仕草に関しては何も書かれていません。

なので撮影現場での水田ディレクターの演出か、新垣結衣さんのアドリブのどちらかだと思います。

 

第9位  酒を飲んでも獣になれない私たち(第4話)

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最終的には結ばれた二人ですが、思い返してみれば第4話で初めて二人が「ラブかもしれない」シチュエーションに飛び込んだのでした。

何をやっても堂々巡りを終わらせることができない二人。

この日は珍しく晶がグラスをあげるピッチも早く、恒星も飲んでいました。

そんなことから、

「馬鹿になってみます?」

の恒星の誘いかけで晶は彼の事務所兼部屋に行くことに。

 

考察編でも紹介したように、背景のカーテンが緑に光り、部屋の壁紙は黄色をベースに色が配置されている夢のように美しいシーン。

なのに!普通ならばムード満点のこの部屋にいるのに!どうしても踏み出せない二人。

晶が気にしている周囲の目線だとか、そういうゴチャゴチャしたものは全て排除されているはずの部屋にいてさえ、そして酒の力を借りてさえ、最後の一線を越えられない。

でも、ドラマ全体を俯瞰してみると「酒を飲んでも馬鹿になれない」ことが第4話という割と早めの時点で明かされたことは重要だったんですよね。

これによって「獣」とは、単なる「恋愛関係における一線を越えられる人」ぐらいの話から、もっと大きなところにある根本的な問題にまで広がったわけですから。

 

あと、この時点では恒星ってただカッコいいだけなんですよね。それが少し嫌味っぽさがあるというか。

第9話で初めて結ばれたときの恒星はもっとボロッカスになっていましたし、やっぱり完璧なところを見せている(=頭が冴え渡ってる状態)では「獣になれない」のかもしれないですね。

 

第8位  朱里の本心(第5話)

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晶は京谷と距離を置くことを決め、恒星に「一瞬付き合って」とキスをする。

その前に実は京谷は大きな決断を下していて、それが朱里と完全に決別することを宣言すること。

家に引きこもってオンラインゲームに夢中になっていた朱里を初めて外に出したのは、京谷の優しさでもあり厳しさでもある思いでした。

 

この後カイジによる「Welcome to the new world」があったり、時系列的には晶と恒星のキスシーンがあったりして、個人的には第5話が一番好きだったりします。

(押井守の「アヴァロン」との関連を書いたこの回の考察も一番気に入っています。どうでもいいですが)

その中でも特に好きなのがこのカット。

京谷に捨てられて、玄関先で立ちすくむ朱里。

その足には、ペディキュアが塗られていた。

この一瞬のシーンだけで、散々憎まれ口を叩いていた朱里がまだ京谷のことを好きでいることがわかるんですよね。

本当にどうしようもない境遇になってはいるけれども、まだ女として見ていてほしい。

そんな思いを一切言葉にしないで伝える名シーンです。

 

黒木華さんが演じた朱里というキャラクターは晶と裏返しになっていて、少し時間軸が異なっていたら二人の立場はまったく逆転していたかもしれない。

京谷という一人の男を巡って表に立っていた晶と、二人が付き合っている時間と寄り添うようにして裏にこもり続けていた朱里。

現実的に考えてみれば4年間も人の家に居座り続けることは少し考えられないことではあります。

しかし、朱里と晶がコインの裏表、二人が運命を共にする間柄くらいの裏設定であると考えればこれも物語上おかしくないんですよね。

後々二人が一緒に暮らす場面があったこともこの考えを裏付けていると思います。

 

第7位  俺たちダメデベロッパー(最終話)

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京谷のラストシーンも堂々たるランクイン。

晶のことは諦めて、キラキラ系のウィメンズとの合コンに登場した京谷でしたが、

上司がまさかの「バツ3」宣言。

かと思えば後輩は首尾よく結婚を決めているらしいし、一体何が正しいんだかわからないものだ。

そんな京谷が開き直ってした自己紹介。

「深い海のような寛容な心を持つ男になりたいです。女性にすぐマンションをあげちゃう癖があります」

聞いたことねえよそんな癖!!!!

京谷の完全に振り切った自虐ネタであると共に、おそらく野木さん本人によるセルフツッコミもあると思いました。

第8位の朱里のところで触れたように、さすがにマンションを人にあげちゃわないよ!

 

「おっさんずラブ」のはるたん役が冷めやらない中、田中圭が演じた役は最上級の褒め言葉で「平均的日本男子」、あとは「クズ男」とか「ダメンズ」、「自業自得」などえらい言われようでしたが、そんな役を愛されながら演じきった田中圭さんに拍手です!

 

第6位 3杯でも、3分でも(第1話)

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第10話で触れた、「けもなれを見続けようと決めたシーン」のもう一つがこちらです。

おそらく晶と恒星が本格的に喋った初めてのシーン。

「晶の笑顔がキモい」とぶった切る恒星に対して、そんなことは自分でもわかっているとついに本音を吐いたあとの帰り道。

事務所の前についた恒星は晶を誘いますが、あっさり断られます。そのあとのセリフ。

 

「ビール3杯じゃ酔わないし、店から徒歩3分の間にたぶらかされるほど馬鹿じゃない」

恒星「馬鹿じゃないの?」

「馬鹿じゃないです」

恒星「馬鹿になれたら楽なのにね」

 

このドラマが見せようとしてくれているのは、こういうことなのだと一発で示してくれるやりとり。

松田龍平は決して私たちの気持ちを代弁するような曖昧な演技をしたわけではありません。

恒星が抱えている様々な歴史を感じさせるような言葉の出し方に、私たち自身が勝手に親近感を覚えたのです。

私の中で松田龍平は「映画俳優」で、ドラマで見たのは「まほろ」か「カルテット」くらい。あとは「舟を編む」とか「泣き虫しょったん」などの映画での演技をよく見ていました(「カルテット」も言ってしまえば映画的な見方を必要とするドラマですし)。

普段はスクリーンでしか見れない松田龍平の濃厚な演技が、違和感なくテレビドラマでも見られる!

第1話のここまでの時点でそこまで見せ場がなかった恒星が、このセリフで大爆発していて、まさかの初回で涙腺刺激。

 

第5位 若狭湾と相模湾(第7話)

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晶が京谷に別れを告げたシーンが第6位です。

第5話でなぜか詳しく語られた、京谷の母・千春の過去と共鳴させる演出が冴え渡っていました。

ここの演出構造については第6話の考察で書いた通りですが、母・千春が若狭湾で父と歩む決意をし、息子・京谷が相模湾で別れる。

日本の山脈を越えた海で正反対のことが起こりましたが、その相手となった千春と晶にとっては進んだ方向性は同じ。「今を変えるために一歩を踏み出す」。

このシーンで若き日の千春を演じた「森七菜」さん(名前!!)は、すでに注目されて様々な作品に出演が決まっているようですね。

こういうちょっとしたシーンで存在感のある演技を見せた俳優さんが後々スターになると、「俺、ちょい役の頃からこの人のこと知ってたから!」と謎の勝ち誇り方ができるのが一つの楽しみです。

 

もう一つは、京谷が別れた時の言葉がかなり印象深いです。

別れを告げた晶が去っていく背中を見て、言おうか言うまいかしばらく悩んだ末に

「晶!俺さ、、、」

言おうとした瞬間に千春が来て、その言葉は遮られてしまいます。

この続きを言えたのは最終回になってから。

「晶、俺、朱里の家出たよ」

長年の堂々巡りの原因になっていた朱里との関係を終わらせたことを相模湾で伝えられていたら、二人の関係はどう変わっていたのか。

この、「ちょっとだけ間に合わなかった運命」みたいな演出がすごくいいですよね。

 

第4位 あ、一発殴ってもいい?(最終話)

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このシーンは好きな人も多いのではないでしょうか。

最終回、ずっとずっと恒星を縛っていた粉飾問題からついに手を切ることにしたシーン。

恒星の走り去る笑顔も素敵ですし、なんなら作品を通して初めて笑った表情を見ることができたのではないかと言うレベル。

ここは見ていた私たち自身も「恒星、本当になんとか幸せになって」と思って最終回まで見てきたわけですし、一緒になって殴った時の快感を味わうことができましたよね。

勧善懲悪的な側面での快感が一番上に乗っかってきがちですが、

・会計士というこれまでの人生をひっくり返す決断

・長年の重りを取り外す瞬間

そんな様々な感情があってのこの笑顔。普段笑わない男が笑った時は、本当にかっこよく見える。

 

第3位 恒星の涙(第8話)

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これはもはや説明不要のシーンですね。

憎んでいた兄との溝を埋めることができたはずなのに、そして兄を救うことができたはずなのに、なぜか恒星の孤独だけが深まっていく。

家族の元へと帰っていった兄・亮太を見る恒星の後ろ姿は寂しく、そのことが恒星が「帰る家族がいない」ことを際立たせる。

最後のバスのシーンでは、被災した実家が取り壊された様子が紙っぺらだけで伝えられる。実は誰よりも繊細で優しいかもしれない男が、一番辛い思いをしてそれを誰にも吐き出すことができない。

このように、書き出していったらキリがないような様々な感情を、松田龍平は静かに泣くことで表現しました。

静かなバスの車内なのに、誰にも気づかれないほど小さく泣く。

心の中で爆発しているはずの感情は、見ている私たちの中に痛いほど伝わってきたはずです。

 

第2位  晶と朱里、それぞれの恋愛観(第9話)

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第2位は、晶の家に転がり込んできた朱里といつのまにか意気投合してお互いの価値観を語りあうシーン。

ささやかな場面でしたが、実はこのシーンに「けもなれ」が言わんとしていたテーマが凝縮されていましたよね。

晶が言っていたのは、「周りの人一人一人との絆を大切にして生きていけば、パートナーがいなくても一人じゃない」ということ。

恋愛をする上で、今の晶ではどうしても「獣」的な価値観と向き合わざるを得なくなる。そこから逃れるべく悩んでいるはずなのに、恋人を作らなかったらそれはそれで周囲から「ワケありの人」認定されてしまう。

設定上晶は30歳。今の時代からすると未婚の方は多くいますが、やはり「婚期の遅れ」的なことを言う人はもしかしたらいるかもしれません。

そういう意味で考えると、千春は晶と京谷の結婚推進派でしたし、「長年付き合っているのなら結婚するのが普通」という価値観を押し付けがちだった序盤はやはり晶にとっては精神的苦痛だったのかも。

 

しかし、なぜ人は30前後で結婚しなければ「おかしい」のか?

それぞれのライフスタイルや人間関係がある中で40や50過ぎで結婚することの何がいけないのか?はたまた、「付き合う」=「結婚」の等式がなぜ当然のこととされているのか?

 

そうではなくて、特定のパートナーがいなくても居心地のいい人たちと緩やかに連帯して(手を繋いで)暮らしていく生き方もアリなんじゃないのか?

最終回のラストシーンで晶と恒星は手を繋ぎました。

多くのラブストーリーがキスシーンで終わるところを、わざわざアップにしてまで手を繋ぐところで終わりにしたのはどうしてなのか?

それはまさしく「けもなれ」の裏テーマが、「獣」に対抗して生きるためには「搾取」ではなく「他者と手を繋ぐ」生き方にあるからではないでしょうか。

 

朱里と晶のシーンは、この裏テーマを最も言葉にして語っていた場面でもあります。

 

第1位  日常を壊す爆弾(第7話)

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第7話を見ていた時点で「あ、このシーン今んとこ1番好きだな」と思っていたのがラストのこのシーン。残りの回を見るうちにマイベストシーンも更新されるだろうなんて考えていたらそれも起こらず。

結果、晶がカレンダーを眺めるだけのこのシーンが不動の第1位となりました。

 

この、穏やかなんだけれど恐ろしい決意と反発の予感に満ちたシーンを見たとき鳥肌が立ちまくりました。

速報レビューの方に書いたかもしれませんが、このカレンダーを眺める行為によって、「これまでのもやもやを終わらせる」意思が明確になりましたよね。

この場面って、2時間ものの映画に例えるならば「第2幕の終わり」なんですよ。(映画は第1幕、第2幕、第3幕からなる3幕構成である作品がほとんどです)

わかりやすく言うと、「クライマックスへの導入部分」。クライマックスそのものではなく、クライマックスの始まりです。

「けもなれ」におけるクライマックスはどこか。これは当然最終話です。

作品全体を通じた問題が解決されるのが最終話でしたが、やはり爽快な部分はあったとしても、それは問題に対する答えを見る回なんですよ。

そうではなくて、これから終わりが「始まる」。さあどんなふうに立ち向かって行くのだろう。想像が膨らんでワクワクが止まらない。そんな部分に私は最も気持ちが盛り上がります。

これまで負けていた者たちが圧倒的な強者を打ち倒す場面よりも、傷ついたところから立ち上がって「さぁ、行くぞ!」。ここに強く気持ちを動かされるのです。

 普通だったら闘志を沸き立てるような構成にするはずの、「クライマックスの導入部」。しかし「けもなれ」では、ただ晶がカレンダーを見る。日付を見定める。

このワン動作のみでした。

なのにこれほどまでに鳥肌が立つとは。

少し王道とは外れた第1位かもしれませんが、私にとってこのシーンが最も心に残って、痺れた場面です。

日テレドラマ

というわけで全10シーン、私の好きなシーンをご紹介しました。

皆さんが「わかる!」と共感してくださるシーンはどれくらいあったでしょうか。

物語上重要なキーとなる場面はやっぱり強く心に残るものですが、何らかの超個人的な理由で心に「ひっかかってしょうがない」場面の方が好きだったりしますよね。

「このシーン気になってるんだけどどういう意味なんだろう?」とか、「このシーン好きだったのに入ってないじゃん!」などありましたら、ぜひ共有させてください!