現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「大恋愛 最終話」感想・レビュー

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予想はしていたというか、そこに至るまでの話というのはわかっていながらもやっぱり結末を迎えてしまうとショックが大きく、、、

悲しいという感情もあるのですが、やり切れなさとか無力感とか脱力感とかの方が明らかにありますし、レビューをこうやって書こうと気持ちを切り替えるまでも結構時間がかかりました。

 

真司にとって小説を書く行為は何を意味したのか?

最終回は、二人の思い出の小説である真司のデビュー作「砂にまみれたアンジェリカ」をかなりの部分モチーフにした回となっていました。

そして記憶を失ってしまった尚に対して、真司が「脳みそとアップルパイ」、「もう一度第一章から」を読み聞かせ、尚が亡くなった後はタイトルと同じ小説「大恋愛」を出版したところでドラマが終わりましたね。

小説の見本を仏壇に見せた後に言った真司のセリフ、

「これから俺は作家として新たなステージに行くね」

は、真司にとっての「大恋愛」、すなわち尚との思い出にひとまずの区切りがついたことを表していたのでしょう。

 

ざっと展開を概観すると、ストーリー上では真司が書いた小説は尚の記憶を一瞬だけ呼び覚ますための鍵として機能していましたが、深いところでは2つの意味が合ったのだと思います。

 

1、二人の思い出の記録

まるで真司は、尚が記憶を失くしてしまった時はそうすることを初めから決めていたかのように、小説を読み聞かせていきました。

その声色は、これまでナレーションで真司が語っていたものと同じ。

やけにゆったりとした優しい声だったのは、記憶を留めていることが困難な尚に対して聞かせることを想定してたからでした。

真司は尚と付き合うことを決めたあたりから、いつかはこうなってしまうことを認識して、それを自分なりのやり方で記録するために小説を書いていたのでしょう。

それを考えるとこれまでの全9回でナレーション付きで語られてきたエピソードは、全て最終回の海辺で尚と一緒に私たちも聞いていたように感じられてきますね。

 

2、自分自身の気持ちのよりどころ

そして自分たちに関する小説を書いていくことは、真司自身にもかなりの影響を及ぼしていたものと考えられます。

第9話では、真司が作家として成功していけばいくほど、尚が相対的に不幸になっていく。つまり、真司が尚からパワーを吸い取って行ってしまっているのではないかという話がありました。

作家として創作のモチベーションとして尚の病気があるという関係性だけを見ると、真司はまっとうなようでいて実は残酷なことをしているのかもしれない、そんなことを思ったりもしました。

しかし、そんなことは真司には全く関係なかったのだと思います。

 

ドラマ上の終盤に入るまでは、尚と真司の恋人関係・夫婦生活がかなり詳細に描かれていました。

その様子は文字通り夢のようで、ここまで幸せな夫婦というものがあるのだろうかと思えるほどでした。

ここで、先ほど述べた「これまでのエピソードは全て最終回の読み聞かせの中の話だ」という説を思い出してください。

つまり二人の結婚生活の描写は、真司から見たor小説に描いたものに変わります。

それが真司の嘘だったとか言いたいわけではなく、彼自身が小説に二人の生活がどんなに素晴らしいものであったかを書く事で真司自身も救われていたのだと思います。

次第に全ての記憶を失って、亡くなってしまうことが決定的な病気を患う妻との生活なんて、どこかしらにすがれる希望がないと真司のように優しく振る舞えないでしょう。

彼が自分の置かれている境遇をある程度フィクションとして描写する事で、あまりにも辛すぎる現実との衝突を少しでも和らげていたのかもしれませんね。

 

病気ものドラマの難しさ

発症前段階から病状の末期まで見事に演じきった戸田恵梨香と、普段の三枚目キャラをまといながらも優しい夫として素晴らしい演技を見せたムロツヨシ。

そんな二人の微笑ましいやりとりに支えながら進んできた「大恋愛」でしたが、最後は病気ものドラマのある種の宿命である「最愛の人の死」で終わりを迎えました。

 

先週、もしくは小池徹平をかなり救いようのない描き方をした回あたりから、尚の病状がかなり深刻になってきて、見ていて結構つらかったです。

二人の思い出は尚の中でちゃんと生き続けていたという希望が最後に出てきて、それで少しほっとさせてくれる部分はあったのですが、やっぱり10週も見てきて主人公の死で終わるドラマというのは精神的にくるものがあります。

だからと言って特効薬ができて全部回復してハッピーエンド!というのもあまりにも嘘すぎますし、死を迎えることがわかっているのに曖昧にして終わらせるのも生易しすぎる。

その点で言えば、「大恋愛」においては尚が亡くなるシーンを直接出さなかったのは素晴らしいと思いました。

別れの場面は確かにエモーショナルにすることはできますが、あの二人の物語は読み聞かせを通して小さな奇跡が起きたシーンで完結していましたから。

とは言え終盤の「悲しい、悲しい」の流れはどうにかならないものか!!

なにが言いたいかというと、

「大恋愛」ロスになるわ!!!

ということです。

ごちゃごちゃ煮え切らない表現を積み重ねてきたのはこれが理由です。

正直言って最終回は内容を変更して二人がキャッキャしてる場面が続くだけでもよかったんですよ!!

3ヶ月もの間ドラマのキャラクターたちと一緒に過ごしてきた私たちにとっては、彼らの死は友人の死と同じ。

病気ものの一つの定番パターンとなるこの「避けられない死」を乗り越えるドラマがこの先出てきてくれないものかなあと思ったりなんかするわけです。

 

というわけで、大恋愛のレビューも今回で終わりです。

毎週お付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!