現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

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「獣になれない私たち」 第九話 感想・レビュー

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野木さんの終盤力、、、!!

 

これまで一見するとバラバラのように感じられていた主要キャスト5人の話が再集会直前になってついに一つになりました。

しかしそれは何か全員の攻撃目標が定まったとか、ゴールが決まったとかそういう類いのものではありません。

全員が、何らかの獣に敗北を喫したのです。

これまでけもなれ考察を通して、晶や恒星のゴールは「獣になること」だと考えてきました。

しかし第九話になって、「人間でいられる」という大事な言葉が出てきました。

それは、晶や恒星がしたような「周りの弱い人に手を差し伸べる」生き物でいられること。

朱里が仕事を始めて期待したように、「人から必要とされる人」になること。

そんな望みは全て「獣」たちの搾取によって破壊されました。

野木作品の中でたびたび登場するのは、「搾取」を行う人々。

それは「逃げ恥」では、夫婦という傘に身を隠した家事などの無賃労働という形で登場します。

また「アンナチュラル」では、いじめをして自殺まで考える被害者が出ても何も顧みる事のない者、男尊女卑を法廷で繰り広げて女性を傷つけるものなど、何らかの形で強い立場にあるものが行う「クソ」みたいな行為でもあります。

「逃げ恥」では結婚を題材に搾取を描き、「アンナチュラル」では一話完結で現代に潜む様々な搾取を紹介し、「けもなれ」においては人間関係や社会全体における可視化されてこなかった搾取を明確に提示しています。

 

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5人が目指す生き方は?

最終回の予告では、「5人が選んだ生き方は?」というタイトルが出ていました。

これまでだったら、「獣になる」ことだったのでしょう。

しかし今週の展開を通して「獣」とは、「人間を搾取するもの」であることがわかってしまいました。

つまり、傍若無人に振る舞う事のできる獣は、周囲を意識的にも無意識的にも傷つけずには存在できないのです。

獣の代表格であるチーターは一人で狩りを行えますが、社会生活を営むシマウマは群れで行動しない限り生き残れません。

このように生存方法が根本から異なるものに、同じ人間だとしても変化することはほぼ不可能。唯一シマウマから脱出することの出来た登場人物は橘カイジくらいですが、彼自身は明らかに「獣」とは真逆の存在です。つまり、

「獣」にならずに「獣」からの搾取を受けず、かつ人間でいられる生き方とは?

これが、最終回のテーマになるのではないでしょうか。

 

では、主要キャスト5人がそれぞれぶつかった「獣」は何なのかを考えてみましょう。私が考えたのは下記の通りです。

 

晶:九十九

恒星:粉飾決算と経理部長の着服

呉羽:マスコミ(世間)

朱里:九十九を初めとする世間

京谷:原節子的女性を求める男性心理

 

晶:九十九

晶に関しては簡単です。朱里に対して横暴な要求を繰り返した末に退職に追い込み、あげくに彼女のいないところで悪口を大声で怒鳴りちらす九十九。彼女の思いを知っている晶は、ついに九十九に反抗します。

しかし逆に怒鳴りかえされてしまい、胸に秘めた辞表も突きつけられないまま。

九十九はいつの間にかけもなれを代表する「獣」になってしまいました。

何でもかんでも自分の身の回りのことを完璧にこなし、それでいて文句も言わない。そんな原節子的な女性を求め、会社の中ではやりたい放題で社員が傷ついていたとしても何もケアをしない。

そんな九十九の搾取へどう対抗するのか、これが晶の最終回のポイントです。

 

恒星:粉飾決算と経理部長の着服

これもわかりやすいポイントです。

兄弟問題が先週で解決しているだけに、恒星が対峙しているものがより明確になりました。

経理部長の着服を暴露しようとした大熊が退職に追い込まれたことを知り、恒星も自らが関わっていた粉飾と縁を切るべく行動を起こしました。

しかしその先に待っていたのは、またしても敗北。

粉飾の書類に伴を押さない限り、彼は税理士として働くことはできなくなってしまう。

恒星が反撃できるとしたら、未だヘルプで入っている会社の経理部長や、全てを失う覚悟で粉飾の書類を捨てるかです。

晶と恒星、お互い自分より大きな力によって敗北を喫した者同士が結ばれたのはある種自然な流れだったのかもしれません。

それは、晶が朱里に言っていた「弱いもの同士が手を結ぶ」行為ですし、それは獣にはできない特権でもあるはずですから。

 

呉羽:マスコミ(世間)

最初は獣カテゴリーに所属していると思われていた呉羽ですが、過去の交際関係を前事務所を通して週刊誌にほじくり返されて厳しい立場にいます。

呉羽自身はそのことを気に病んでいたりはしていない様子ですが、カイジがその責任を取らされたりしているようです。

呉羽が相手にしているのは、前事務所という大きな社会的組織と、どこにどれくらい存在しているのか、どれほどの影響力があるのかわからない世間の目の2つです。

特に世間の目という部分は、最近の社会に目を向ければわかると思います。

ほぼ1週間に一回、誰かやらかした人をツイッターやテレビに晒し上げて謝罪に追い込み石を投げ続ける。叩きのめすだけ叩きのめしたらそのことは忘れて次の候補を探す。

これは最近NHKで放送された野木さん脚本の作品「フェイクニュース」でも同じような題材がありましたね。

作中で最も「獣」的人物であった呉羽が一体どんなリアクションを返すのか。これも注目です。

朱里:九十九をはじめとする世間

朱里の場合、きっかけというか表面的な原因は九十九の罵倒です。

しかし、彼女が仕事を通して求めていたのは「人から必要とされる人になる」こと。

今まで家に引きこもっていたせいで様々な会社から邪険に扱われ、恒星にもひどく言われ、仕事ができないならできないでまた文句を言われる。

朱里はきっと、仕事を自分なりにやり遂げることでこれまで自分の障害となってきた「働く事」に対する世間的な目線を取り払おうとしたのではないでしょうか。

もっと悲惨な言い方をすると、「無職の元ニートは何やってもダメ」などの言説です。

作中ではここまでの言い方をされていませんが、彼女が直面した世間の目はこういうものだったのではないでしょうか。

 

京谷:原節子的女性を求める男性心理

京谷の選択が実は一番重要だと私は思っています。

なぜなら、この原節子的女性像は以前の晶であり、世間が求めてきた新垣結衣でもあり、日本の古今様々な作品を支配する理想の女性だからです。

ジブリのヒロインはみんな原節子的女性ですし、日本のテレビドラマで受け身の女性が描かれることが多いのもこれが原因だと思います。

全員とは言いませんが、男性の心の中にいつも笑顔であれこれ言う事を聞いてくれる女性が理想として存在していることが多いのではないでしょうか。

何度も言っているように、「逃げ恥」においてはその心理で結婚をするのは「搾取」であると明確になっています。

 つまり、無意識レベルで晶に理想の女性像を押し付けていた京谷が自分の間違いに気が付けば、自覚できないミクロなレベルなのに最も悪質な「搾取」への対応が見えてくるかもしれないからです。

日テレドラマ

というわけで、ついに来週最終回を迎えるけもなれ。考察編では、それぞれの立ち向かう最後の敵と、そこに橘カイジがどう絡んでくるのかなどを考えてみます。


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