現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「獣になれない私たち」 第七話 感想・レビュー

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核爆弾、爆発させてやろうぜ!

 

あぁ、すごい回だった。

先週の閉塞感が嘘のような、色々な物事に踏ん切りがついていく感覚。

回を重ねるごとに息がぴったりと合ってきたキャスト陣の、聞いているだけで楽しい豊かな会話劇。

その中で脚本家野木亜紀子さんが「逃げ恥」、「アンナチュラル」でも題材にしてきた「無自覚な男性から搾取される女性」というテーマが滲んでくる展開。

このドラマ、確かに入り口は「生きづらさ」を持ってきていたかもしれないけれど、話が進んでいくにつれてそれを作っているのは誰なのか、一体どうして生きづらくなってしまうのか、という深いところまで私たちを連れてきてくれていた。

そしてさりげなく入ってきた「太陽を盗んだ男」。中学教師が日常を破壊しようと核爆弾を作って日本中と戦う70年代の名作中の名作映画。

晶の賃貸更新期限、恒星の粉飾決算の時期が重なる11月末に向かって、これまで二人を押さえつけてきたものに対して大爆発を起こすというラストが見えてきた!!!(あくまで予想)

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若狭湾と相模湾の皮肉な対比

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今回、ついに晶が京谷に別れを告げましたが、その演出が見事でしたね。

第五話で語られた千春の過去回想。若狭湾に囲まれた田舎で一生を終えていくのかと半ば絶望していた千春に、「獣になる」一歩を踏ませたこのシーン。

左側に女性、右側から男性というまったく同じ構図が取られ、相模湾を背景に晶と京谷が別れ話をしました。

日本海に面した若狭湾では男女が結ばれましたが、その反対側、太平洋に面した相模湾では男女が別れてしまいました。

でも面白いのは、女性側にとってはどちらも同じ決心の元で行動が起こされたことです。

千春も晶も、海での行動は両者とも「獣になる」一歩を踏み出したことで共通しています。

もはや説明不要ですが、これまでの様々な思いや歴史が重なった本当にけもなれ屈指の名シーンになりましたね。(ドラマが終わったらけもなれ名シーンランキングでもやろうかしら)

 

随所に見え隠れする原節子の幻影

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けもなれを見ていてすごく思うのは、恒星を除く男性メンバーがことごとく原節子的な女性像をパートナーに求めているな、ということです。

第一話で松任谷ちゃんが簡単に原節子の話をしていましたが、戦後まもない頃の昭和の映画、黒澤明とか成瀬巳喜男とか小津安二郎とか、とにかく日本の名作と呼ばれる映画を見るとだいたいこの人が出演しているんですよね。

その役柄は「永遠の処女」という呼び名からわかるように、男性にとにかく尽くしながらも笑顔を絶やすことのない女性の役が多いのです。

本人の中でもそれに対する葛藤が描かれたりもするのですが、それよりも父親の思いになんとか応えてあげるために自分を犠牲にしたりとか、金がなくてどうしようもない旦那を必死に鼓舞してあげたりとか、こんな人が嫁さんだったら旦那は幸せな暮らしができるよなぁと思ってしまいます。

 

自分の要求を全て叶えてもらえないと気が済まない九十九はそんな原節子を壁紙にしているくらいですし、「晶かわいくない」と言ってしまった京谷が好きだった晶もまさしく原節子的な女性像を無意識に求めていたのではないでしょうか。

松任谷ちゃんが暴言を吐いていましたが、そんなの女性からしたら身勝手な願望にすぎませんし、搾取に近いんですよね。

実はこの考え方は「逃げ恥」でも家事という無償の労働を通して問題提起されていましたし、「アンナチュラル」では石原さとみが女性ということで結構きつい差別を受けていたりしてモロに描かれていました。

そういう意味では、野木さんが自作の中で共通して描いてきたテーマなのかもしれませんね。

 

太陽を盗んだ男は何を表している?

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第七話の最初と最後になんとなく語られて印象に残った「太陽を盗んだ男」の話ですが、これは1979年に長谷川和彦監督が作った大傑作映画です。

長谷川和彦って誰?と思うかもしれませんが、それは間違っていません。

この人は本作ともう一本の合計2本しか監督作がないのです。

なのにその一本は70年代を代表する傑作というのがものすごいのですが、そんなことからも有名な作品だったりします。

あらすじは恒星が適当に改変していましたので正しいものをいうと、

中学校の理科教師がプルトニウムを盗んで自宅で原子爆弾を作成し、それを元に日本政府を脅迫するお話です。

主人公の中学教師に最近ライブドタキャン騒動で話題になった沢田研二、彼を追う警察官として菅原文太さんが出演しています。

この映画、細部に渡ってかなり緻密に作り込まれているのですが、沢田研二と菅原文太のカーアクションだったり、ヘリを使っての逃走劇だったりといった活劇の部分がどう考えてもありえない挙動をしていて、真面目なんだかふざけているんだかわからないものになっています。

 

原子爆弾は人々の日常を破壊する兵器として登場して、初めは「巨人戦を試合終了まで中継しろ」とかくだらない要求を沢田研二はしたりするんですが、これが叶うんですね。それによって彼は当時独占的なメディアだったテレビを自分が動かしてしまったことに気づいて、

「俺は9番目(の核保有国)だ」

なんて言ったりしてそれがまたすごくかっこいいんです。

しがない一人の理科教師に過ぎなかった自分が、そこまで絶大なパワーを持ってしまったわけですから。

そこから要求が「ローリングストーンズ日本公演を実現させろ」とか、「現金5億円」とかにまで拡大していくんですが、沢田研二が悪行をしている姿がなんだか応援できる。この人になら日常を破壊してもらってもいいんじゃないかという気持ちになってくる。

 

けもなれも同じで、晶と恒星は自分たちを縛ってきたり搾取してきたものたちに爆弾を仕掛けるような展開にこれからなっていくんだと思います。

それが劇中での11月末で、それはおそらくドラマの最終回にぶつかるでしょう。

どんな爆弾を持つのかはまだ全然明らかになっていませんが、二人のちょっとした復讐劇が始まるような予感を漂わせてきて私はかなりわくわくしました。

日テレドラマ

それでは、速報レビューはこんなところで。

また土日に考察をあげていきます!