現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

テレビにとってマイナスしかない「イッテQ」やらせ疑惑

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先週から各媒体で日テレの大人気バラエティ「世界の果てまでイッテQ!」のやらせ疑惑が取り上げられています。

簡単におさらいすると、宮川大輔さんの人気企画「世界で一番盛り上がるのは何祭り?」内でラオスのお祭りとして取り上げられていたものが、実際には日テレ側が企画を持ち寄ってセットを立てて作ったものではないかという疑惑です。

このブログのタイトルで「現役テレビ局員の〜」と書いてはいますが、私自身も報道されている以上のことは何一つ知りません。

しかし、最近の一連の流れを見ていて思うことがあるので少し考えをまとめてみました。どちらかとイッテQ個別の話ではなく、テレビ業界全体に関わる話が多いです。

※若干センシティブな話題なので改めてになりますが、当ブログの記事は筆者個人の見解であり、特定の会社の意見を代表するものではありません。

 

 

 

やらせ報道を拡散したのは誰か?

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今回の疑惑に関して、11月8日に週刊文春で報道がされてからネットニュースに後追い記事が載り、テレビのワイドショーで大々的に報じられるまで半日とかかりませんでした。

例えばフジテレビは当日にグッディが30分強に渡って特集を放送。

祭りの詳細をイラストを用いて説明するなどの力の入れようで、逆にイッテQを見てみようかと思えるようになるほどのものでした。

その翌日にはテレ朝のモーニングバード。

なんとラオスまで現地取材に出張り、記事の裏取りをしに行きました。記事が出て翌々日の朝に間に合わせるということは、出た瞬間にラオスに飛んだことになります。恐ろしい行動力、、

そしてその後も各局がなんらかの形でこのニュースに触れ、唯一何も語らないのが当事者である日本テレビだけとなりました。

他局の番組の内容にも関わらず各社がこぞって疑惑を報じたのはなぜか、それはもちろん、イッテQが日テレの視聴率を根底から支える屋台骨だからです。

 

10月にテレ朝に奪回されるまでは、日本テレビは58ヶ月連続でゴールデン・プライム・全日の視聴率三冠王を維持していました。(11月に再び三冠王復帰)

その大きな要因となっているのは、日曜日7時〜9時台に放送される「鉄腕DASH」、「イッテQ」、「行列」の3番組です。

これらは最低でも平均して視聴率15%、良い時は18%くらいをザラに稼いでいます。

ドラマに例えて言うと、1年を通して毎週「逃げ恥」最終回を放送しているようなものです。

なので朝の「ZIP」や「PON!」の視聴率では「めざまし」や「モーニングバード」に差をつけられていたり、そこまで高視聴率のドラマを持っているわけではないのに日曜日の視聴率で逆転することが可能なのです。

つまり、他局からすれば日本テレビの視聴率の核をなす「イッテQ」はこのチャンスにどうしても潰しておきたい、そんな思惑があるのだと思います。

しかし、私が言いたいのはそれが小賢しいとかそういうことではありません。

 

戦う相手が違うのではないか 

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今テレビ業界は空前の危機にあると思います。

ビデオリサーチが発表している、チャンネル関係なくテレビを見ていた世帯数を表す数値であるHUT(Households Using Television)を見ると、2007年にはプライムタイムで70%前後あったものが今や60%を割ろうとしているのです。

テレビはわずか10年で10%ものシェアを落としていることになります。

視聴率は世帯数で算出するので一概には人数を割り出す事はできませんが、日本の人口1億5000万人のうちの10%がテレビを見なくなったという事は、、、

恐ろしい数字ですよね。

では、テレビを見なくなった人たちはどこに行ったのか?簡単です。

 

Youtubeなどのストリーミングサイトや、Netflixなどの配信サイトです。

 

昔は映像を見る事ができるメディアはテレビだけでしたが、スマートフォンの普及で選択肢が増えたことによって娯楽の王様としてのテレビは終焉を迎えつつあります。

以前であればテレビ局が争う相手は他のテレビ局でよかったのかもしれません。

ですが、今テレビ局が戦う相手はネット動画です。しかも彼らは圧倒的物量を供給(Youtube)し、豊富な制作資金を持つ海外から厳選された(Netflixなど)コンテンツを持っています。

数量、質、その両面においてテレビを凌駕する映像メディアが既に現れているというのに、なぜ同業者同士で足の引っぱり合いをしているのか、私にとっては謎でしかありません。

先程HUTという指標を例にとってテレビ全体の視聴者数が減少していることを示しましたが、それよりも深刻なことがあります。

若者の尋常ではないレベルのテレビ離れです。

 

文字通りのオールドメディアと化しているテレビ

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先ほどHUTというテレビ全体をつけている世帯の数値の現象を取り上げましたが、10%減となったとはいえ、まだ他のメディアからすると圧倒的なシェアを誇っているのは確かです。

しかし、HUT以外にも強く危惧すべき数値があります。

ティーンやM1・F1層の視聴率です。

 

ビデオリサーチが出している視聴率のデータには、どの番組がどれくらい見られたかという一般的に言う所の視聴率はもちろん、その番組がどの層に何%くらい視聴されたかの数字も出しています。

これを見ると各番組の世代間での人気が一目瞭然で、アニメが若者に多く見られているのに対して、笑点はやはり高齢者層中心だったりします。

 

そして若者のテレビ視聴率はここ10年で15%から20%ほど落ち込んでおり、テレビ離れが顕著に起きていることがデータから読み取れるのです。

これは前述の通り娯楽が多様化したことも一因ですが、テレビ局が視聴率目当ての番組を量産してきたことも大きな原因です。

 

「私、失敗しないので」が失敗していること

テレビ朝日のキラーコンテンツである、米倉涼子のお仕事シリーズ。「ドクターX」は毎年のようにシーズンが更新されていき、今年は「リーガルV」という職業が変わっただけで実質的には「ドクターX」のマイナーチェンジ版が放送されています。

これらは表向きには視聴率が絶好調ですが、視聴層は極端に高齢者に偏っています。

 

視聴者が高齢者に偏るとなぜ高視聴率が取れるのか。答えは簡単です。

日本には現在若者の2倍高齢者がいるからです。

視聴率を記録する機械は日本の人口比率と一致するように設置されていますから、

分母が桁外れである高齢者向けの医療番組や旅番組、水戸黄門的な勧善懲悪ドラマを放送すれば視聴率は当然高く出ます。

単純計算すぎて正確ではありませんが、若者の人気の番組がこのような高齢者向けの番組に視聴率で勝つには、高齢者の2倍の数若者がその番組を見る必要があるのです。

 

そんなあまりにも部が悪すぎる戦いを挑むのは企業として得策ではありません。

 

なのでテレビ番組は自然と似たような長生きの仕方の紹介番組で溢れていきます。

若者にとっては何一つ惹きつけるものがありませんから、当然のごとくテレビを見るのをやめてネット動画に流れていきます。

そうなるとさらにテレビ人口の高齢化が促進し、若者向けの番組がテレビ欄から消滅していきます。

 

あまりにも視聴率がもてはやされてしまったために、こういった悪循環が起きているのです。

 

では、こうなると何がテレビ業界にとって問題なのでしょう?

これからますます平均年齢が上がっていく今の日本においては、高齢者をターゲットとした番組編成で問題はないのでしょう。しかし、彼らがいなくなった後はどうなるでしょうか?

若者はテレビが面白くないと認識して他のメディアに行っているわけですから、視聴習慣がありませんし、歳をとったからといってテレビのお客さんとして戻ってきてくれる保証はどこにもありません。

 

つまり、老人番組を放送し続けることによって将来のテレビ視聴者を自ら減らしているのです。

 

現状さえよければいいという番組の作り方が、テレビ業界全体が縮小していく速度を爆速で上げています。

米倉涼子が「私、失敗しないので」と見栄を切っている間に、テレビからお客さんはどんどんそっぽを向いていくことになります。

 

「イッテQ!」が果たしている大きな役割

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では今まで紹介してきたような高齢者偏重の時代において、「イッテQ!」は一体誰が見ているのでしょう?

 

子供とその親を中心とする、10代〜40代の幅広い男女です。

 

高齢者はその時間ほとんど大河ドラマを見ていますから、数値としてはテレ朝の米倉涼子ドラマの1/3ほどしかイッテQを見ているその世代の人はいません。

つまり視聴率を高く出すゲームにおいては不利な人たちが主な視聴層にも関わらず、イッテQは文句なしに日本で最も見られている番組になっているのです。

 

日本テレビの日曜夜のバラエティを見て育った子供達は、「テレビって面白いんだ」と感じてくれます。

その感覚を持ってくれさえすれば、Youtuberが好きでも、huluの海外ドラマが好きでも、今後数十年に渡ってテレビのお客さんでいてくれる確率は高くなるでしょう。

ともすれば数字面だけでの成績を取る誘惑に負けてもおかしくない状況において、イッテQは親子が楽しんで見られる番組作りという哲学を貫き通すことで、

日本のテレビ業界全体を将来的な面から支えているのです。

私が言いたいことにだんだん近づいてきました。

 

同業者が足を引っ張りあっている場合ではない

娯楽の選択肢が多様化したこと、テレビ局が視聴率重視で高齢者偏重の番組を作り続けたことを通して、今のテレビ業界が置かれている「将来的な視聴者を食いつぶす」構造を駆け足でご紹介してきました。

2018年11月14日現在、日本テレビは「イッテQ」の演出に行き過ぎがあったとして初めて声明を発表しました。

意地の悪いことに、ラオスの祭り以外でもやらせがあったとの続報が出てきてもいるようです。

恐らく各テレビ局は続報に関しても嬉々として報じるでしょう。

しかし、この騒動を通してよく目にする感想は、

「まぁバラエティなんて全部やらせだから」

です。「イッテQが」ではありません。「バラエティが」です。

他局のキラー番組を潰すために批判を繰り返すことで、テレビ番組の大半を占める「バラエティ番組」自体の信頼性までも損ねていることにいい加減気がつくべきです。

これは、完全なるテレビ局の自殺行為にすぎません。

 

そして、テレビよりもよっぽど数が多かったり、質的に優れているライバルが多数出現している中で、テレビ局同士がお互いを貶しあっている場合ではありません。

テレビ業界全体として団結し、ネットへの流出を食い止める必要があるのです。

 

というわけで、これが私が内側のような外側から見た「イッテQ」の一連の騒動でした。