現代劇や時代劇、どちらに出演しても違和感なくその世界に溶け込み、類まれな演技力で私たちの心を動かしてくれる女優、黒木華さん。
現在はドラマ「獣になれない私たち」(日テレ水曜10時)に出演中で、主要人物の一人として存在感を発揮しています。
そんな黒木華さんはドラマはもちろん映画にも多数出演していて、しかもそのフィルモグラフィはまさに傑作ばかり。
彼女の出演作品をドラマ編、映画編と二つに分けて特集!
今回は映画編。岩井俊二作品からその名を世界に知らしめたベルリン映画祭受賞作まで、5本の傑作をご紹介します。
↓黒木華さんの詳しいプロフィールはドラマ編の冒頭をご覧ください↓
黒木華出演映画・おすすめ作品
小さいおうち
「男はつらいよ」シリーズで知られる山田洋二が監督を務める本作に、黒木華さんはオーディションをくぐり抜けて主演の座を射止めました。彼女は本作の演技が絶賛され、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞しています。
私が初めて黒木華さんを認識したのもこの映画です。
「この昭和顔をした演技がうまい女優は誰だ!」と思って調べたら、当時24歳と知って驚いた思い出があります。
特に素晴らしいのは、「小さいおうち」の予告編にも使われているこのシーン。
1カットで黒木華と松たか子の演技が堪能できる素晴らしいシーンです。
黒木華は山形から上京した女中の役で、かつて奉公していた「赤い三角屋根の小さいおうち」に関する回想録を執筆します。そこには彼女が仕えた平井家の「ある秘密の恋愛」について書かれていて、それは一体何だったのかを巡るストーリーです。ですが、、、
この物語はストーリーテリング上の「ある手法」を使っているため、それに気づくか気付かないかで結末の意味がまったく正反対に見えます。
ヒントは、「この物語は誰の目線で語られているのか?」です。
ただ、注意深く見てもそうでなくても、小津安二郎を彷彿とさせる山田洋二の演出が光り、安心して見ていられる映画です。
ドラマでの黒木華さんを多く見てきた人たちにはこの映画を見て、彼女が持つ静かで凄みのある演技力を体感してほしいと思います。
幕が上がる
ももいろクローバーZのメンバー全員が主要キャラクターを演じ、「踊る大捜査線」で知られる本広克行監督が「自分の最高傑作」と言った映画です。
黒木華は、ももクロメンバーが演じる高校演劇部の顧問を演じています。
役どころとしては、元舞台女優で自分の夢を諦めて教師をしていたものの、ももクロメンバーの演劇への情熱に誘われて自らも本当の気持ちを思い出していく、、、というキャラクターです。
未熟な演劇部員たちに演技の楽しさを伝える一方で、その延長線上にあるプロの舞台俳優の世界を彼女たちに教えるメンター的な立ち位置も含まれています。
主演がももクロなので単なるファン向けのアイドル映画かと思って見ると度肝を抜かれます。
本作は、アマチュアがプロの世界に足を踏み入れる恐怖と感動を真剣に描いた青春映画の傑作です。
部活にすぎない演劇をなぜこんなにも必死になってやるのか?
未来が見えなくなった時、何を頼りに進めばいいのか?
これらの疑問がそのままアイドルとしてのももクロに重なる疑問となって提示されることで、全員が初映画とは思えない迫真の演技を見せてくれます。
特に最後の大会での「銀河鉄道の夜」の演劇シーンでは、アイドルとしてのももクロ、アイドルという職業をする女性、役としての演劇部員の3つの姿が1つに合わさってまるでドキュメンタリーを見ているような感覚になります。
役者自身の人生と映画での役が重なって奇跡が起こる映画が稀にありますが、「幕が上がる」はまさしくそのタイプの映画です。
おおかみこどもの雨と雪
「時をかける少女」などで知られる細田守監督最大のヒット作「おおかみこどもの雨と雪」。実写ではなくアニメーションですが、黒木さんは雪の声優をしています。
本作の公開は2012年と、映画やドラマよりも先。
細田守は早くから黒木華の才能を見出していたことになります。”才能を見抜く才能”に関して細田監督は折り紙付き。海街diaryで注目されるに先立って「バケモノの子」で声優起用をしていたり、「未来のミライ」ではぎぼむすで高校生のみゆきを演じた上白石萌歌を見つけています。
黒木さんが声をあてる雪はおおかみと人間の間に生まれた小学生の女の子。
狼として生きることを選択した弟とは対照的に雪は人間としての幸せを求め、狼の血が混じる自分に対して強く葛藤します。
雪が雨の小学校に取り残され、好きな男の子に自分の秘密を打ち明ける夜明けのシーンは鳥肌が出るほど美しく、黒木さんの声も小学生役という歳の離れた役ですが雪を見事に表現しています。
「おおかみこども」は現状細田守のマイベストなのでこれがオススメですが、黒木さんは細田監督の最新作「未来のミライ」にも声優として出演しているので気になった方はぜひ見てみてください。
ソロモンの偽証
宮部みゆき原作の小説「ソロモンの偽証」の実写映画にも出演しています。
監督は、日本映画界において名作を数多く残しているのになぜか名前が浸透していない成島出。
学校内で起きた転落死の謎を、生徒たちの学校裁判で明らかにするお話です。
本作は裁判シーンを中心にしており、そのための生徒役全員がオーディションから選ばれるという前代未聞の配役を行って話題を呼びました。
キャスト決定後も綿密な演技レッスンやカメラを回さないで行う模擬裁判などを実際に行うことで演技にもリアルさが増し、その年の映画賞を数多く受賞した作品です。
この作品での黒木華の役は、学校裁判を行ったクラスの担任森内恵美子。
教師であるにも関わらずことあるごとに女っ気を見せ、男子生徒から好かれる一方で女生徒からは嫌われもの。
前編では担任の生徒の死が事故ではなく自殺だったという告発状を廃棄してもみ消そうとしたとして問題になります。
初めはそのような自己中心的な人物かと思いきや、次第にそれが一面的な見方にすぎず、彼女自身も様々な葛藤を抱えていたことがわかってくるのです。
「ソロモンの偽証」という作品自体が人間の多面性を非常に鋭く描いていて、主人公たちとは外れた人物ながらも、森内は深みのあるキャラクターになっています。
この映画には後にドラマ「anone」や、映画「ちはやふる」で広瀬すずと共演することになる清水尋也くんが、第一容疑者の大出役として出演しています。
この子が後に彦星くんになるんですね。若い。
リップヴァンウィンクルの花嫁
みんな大好き?いや、好きな人は大好きな岩井俊二監督の作品です。黒木華はこの作品で映画単独初主演となりました。
元々この映画自体が、黒木華さんを主人公にキャスティングすることを想定されて作られた作品。彼女は色々な監督からその才能を認められているんですね。
SNSで知り合った男性と結婚するも、どこか満ち足りない主人公の七海。
結婚式が終わった直後に浮気が原因で離婚し、七海は報酬100万円でメイドのバイトをすることになります。
そこでめちゃくちゃな性格の真白と出会い、彼女自身も惹かれていく、、、
という話なんですが、SNSだったりメイドだったり、岩井俊二の好きそうな要素が相変わらずたくさん出てきます。
正直岩井俊二作品は小難しそうで何から見たらいいのかわからない、という人が多いかと思います。
なので初期の作品を見たければ「リリィ・シュシュのすべて」を、最近のものが見たければこの「リップヴァンウィンクルの花嫁」をおすすめします。
というわけでドラマ・映画合わせて10作品紹介しましたが、驚くべきことに何一つ同じような役がありません。
実は「幕が上がる」「ソロモン」「リップヴァンウィンクル」全て職業は教師なのですが、毎回まるっきり違うキャラクターを演じ分けています。
その演技の幅広さには「まいった!」というしかなく、今後もたくさんの監督とたくさんの作品に出演していくでしょう。
目の離せない女優、黒木華にこれからも大注目です!!