第5話を境に数年後に飛ぶドラマが急増
2018年秋クールは空前の「前後編」ドラマブームとなっています。
TBS火10「中学聖日記」では第一話から第五話までで主人公の聖(有村架純)と15歳の中学三年生の黒岩くんの恋が描かれ、第六話からはその淡い恋から3年後の話が展開します。
同じくTBS金10「大恋愛」においては第一話から第五話までに主人公間宮真司(ムロツヨシ)と若年性アルツハイマーの尚(戸田恵梨香)が結婚し、第六話からは再び時間が飛んで最終的には10年越しの恋愛を描く壮大な構成になることが予想されています。
有村架純主演で言うと、3年前の坂元裕二脚本の「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」でも第五話で2011年を舞台にした第1章が終了し、第六話からはその5年後、すっかり成長した登場人物たちによる第2章に入ります。
最も最近でインパクトを残したドラマだと、「義母と娘のブルース」、ぎぼむすがあるでしょう。こちらは第六話冒頭で綾瀬はるか演じる亜希子の夫、良一(竹野内豊)が亡くなり、小学生だった娘のみゆきが高校生になるまで時間が飛びます。
このように、2018年夏・秋クールの二つに絞っても3作品も「前後編2章仕立てドラマ」が制作されており、明らかにそれはテレビ局側も意図していることがわかります。
では、実際に2章仕立てのドラマが流行り出した原因はなんなのか、探ってみます。
ドラマ史上最も成功した章仕立てドラマ
最近になって前半と後半で時間的飛躍があるドラマが増加した理由を辿ると、やはりこのドラマに行き着きます。
最終回で視聴率42%という今世紀最高数字を叩き出したモンスタードラマ「半沢直樹」です。
半沢直樹では銀行員半沢直樹の上司との対決を軸に話が展開していきますが、
第一部:前半五話が東京中央銀行大阪西支店編(大阪編)
第二部:後半六話が東京中央銀行営業第二本部編(東京編)
にはっきりと分かれ、話自体も
・大阪編:支店長の浅野との5億円を巡る戦い
・東京編:半沢の父を死に追いやった宿敵、大和田常務との最終決戦
と両者で独立しています。
元々初回から視聴率のよかったドラマではありますが、第一部の最終話で29%を記録すると、第二部の初回(第六話)で同29%を維持し、そこからは毎回尋常でないペースで話題と視聴者を呼び込み、最終回の42%につながりました。
特に第5話で大阪編のラスボスである支店長浅野を倒した際に「倍返しだ!」のセリフが飛び出し、そこから「半沢直樹」の名前が独り立ちしていった印象があります。(逃げ恥の時に恋ダンスがそれ自体で社会現象化したのと同じですね)
おそらく半沢が近年最もヒットした二部構成ドラマだと考えられますが、そのメリットを本作から読み取ることができます。
章仕立てドラマのメリット
2回ドラマ的クライマックスを作り出せる
当たり前ですが、全ての物語には始まりがあって終わりがあります。
ドラマも一般的なセオリーでは1クールの11週を通して大きな物語を完結させていきます(1話完結型のドラマの場合も大抵は大きな物語が裏で進行して最終回でそれが解決するパターンです)。
この場合は第一話でキャラクター紹介(越えるべき課題の提示)、第五話で大転換(目的としていたものが大きく変わる)、最終回で第一話で描かれた課題の解決という流れが普通です。
しかし二部構成になると、第一話でキャラクター紹介、第二話から第三話にかけて大転換、第五話で解決。第六話で新たな障害の発生、第九話で大転換、第十一話で解決。のように二回クライマックスを作り出せます。
つまり毛色の違った大きな物語を二個用意するという手間はかかりますが、その分だけ盛り上がりの回数も多くなり、視聴者を飽きさせずに毎週見てもらえやすくなるということですね。
第二部開始時点で視聴者の途中合流を狙える
物語面でのメリットがクライマックスの倍増だとしたら、視聴率面でのメリットはもちろんこれでしょう。
第一話を見逃してしまい、だんだん口コミが広がっていったはいいものの、連続して話が続いているらしいから途中から見てもわからない。このような置き去りにされてしまった視聴者を回収することができるのです。
もちろん見逃し配信だったりダイジェスト放送だったりでカバーする事もできますが、自力で追いつくのには時間も手間もかかる。
一回見逃したドラマに例えば第4話から追いつきたいと思っても、第1話〜第3話分までの映像を見返すのは意外と辛い作業です。
でも、二部構成であれば話は変わります。
「あの面白いって話題のドラマ、来週から第二章なんだって!」となれば、登場人物が同じだけで話の流れは一旦途切れていますから、途中合流へのハードルは幾分下がります。
実際にぎぼむすでは第一部最終話(第六話)の視聴率が13%、それまでも12%台をうろうろしていたのが、第二部初回(第七話)で15%とジャンプアップを果たし、最終話で19%まで伸ばしています。
一話一話の面白さはなかなか視聴率に反映されにくいですが、第一部という大きな塊であったら作品としての評価も固まり始めた頃。つまり、第二部初回の視聴率が、第一部の評判の現れと見る事もできるのです。
キャストを一新できる
二部仕立てはキャスト面でも話題を呼べます。
通常であればクール開始前に主演はもちろん助演クラスの名前が出そろってしまい、そこで興味をそそる事ができなければそのドラマを見る人の数はある程度決まってしまいます。
しかし、「後半戦ではこの俳優が新たに加わります!」とクールの中盤で呼び水として宣伝をすることができ、今まで見ていなかった層も取り込む事ができるのですね。
半沢直樹では、第一部ではちょっとした役だった片岡愛之助が、第二部でかなり見所のある役にチェンジしています。
大恋愛では、第二部から小池徹平が参加することが発表になりましたね。
時間飛躍すると初回から鑑賞組のカタルシスが半端ない
これは人によるのかもしれませんが、もちろん二部構成は途中参加組へのサービスだけではありません。初回から見続けている人にも嬉しいところがあります。
それは、今まで見てきたキャラクターの数年後の姿も1クール中に見る事ができるという嬉しさです。
例えば中学聖日記で言えば、15歳という年齢のせいで教師である聖との恋愛を阻まれてしまった黒岩くん。第5話の終盤で、
「3年後」
のテロップとともに、大人びた姿をちらっとだけ見せてくれたじゃないですか
うおおおお成長してる!!!
という衝撃や快感(カタルシス)は、初回から一緒に走ってきた人だけの特権です。
よくあるのはシーズン1は11話通しで一つの話。シーズン2で数年後、みたいなパターン。これも嬉しいっちゃ嬉しいのですが、同じドラマで次のシーズンが制作されるのは最低でも1年後。
二部構成だと、シーズン1をやった1週間後にシーズン2を見れるようなお得感があるのかもしれませんね。
章仕立てドラマのデメリット
話が薄く、駆け足になりがち
一見するといいことずくめに見える章仕立てですが、やはり一長一短あります。
まずは物語面。原作があったり、そもそも一つのお話として考えていたオリジナルものを少し無理させて二部構成にすると、話が原液を薄めすぎたカルピス状態になります。
もしくは濃度の配分を間違えて、第一話〜第四話までが通常ペースにするも、ムリヤリ第一章を終わらせるため第五話でスーパー駆け足になってそれまでの積み重ねを台無しにするケース。
中学聖日記の第一章終了になんだかもやもやした理由
好きだから言う面もありますが、「中学聖日記」は後者のケースのきらいが少しあると感じました。
今まで黒岩くんの気持ちを受けるだけだった聖。第三話の終わりでやっと自分の気持ちに気付き、第四話で黒岩くんの決死のアプローチを受ける。
「さあ、聖はどう気持ちを固めて行く?」となるはずが、「どう固める」の部分がぶっ飛ばされていつの間にか聖も黒岩くん大好き側にまわっていました。
本当ならば先生としての夢とか、生徒と今まで築いてきた関係性はどうなるの、とか様々な葛藤ができてもおかしくなかったのに、彼氏との結婚問題だけに黒岩くんとの関係に対する葛藤は絞られてしまいました。
結果論にすぎませんが、私は第五話までの流れを11話かけてやってもよかったのではないかと思いました。受け身の役どころが多い有村架純の変化をそのくらいの時間をかけて見守る楽しみもあったはずです。その後は人気が出たらシーズン2で、、と思うのですが、そうも言ってられない展開が大人編で待っているのでしょう。
第一章で共感を得られなかった場合、第二章が地獄
メリットの面では、同一クールの中にシーズン1とシーズン2があるようなものだ、と書きましたが、これはメリットでありデメリットでもあります。
第一章の評価が直接第二章に乗っかるのであれば、悪い評価も乗っかるということです。
章の切り替えのタイミングはそのまま視聴者が離れるちょうどいいタイミングにもなってしまいますからね。
つまり、第一章が失敗すると第二章の視聴率も悲惨なものになりかねません。まあ、これは章仕立て限らずどの形態のドラマにも言えることなのでしょうが。
予算が倍増する
現状章仕立てドラマを積極的に打っているのは、TBSだけです。
半沢の成功体験を繰り返していると見る事もできますが、やはりドラマにかける予算が莫大と言われるTBSだからこそできる芸当とも言えるのでしょう。
二章分にするということは、
・セット(2クール分作らなければならない)
・キャスト(追加キャストの分予算がかかる)
も二章分ということです。
広告収入が減っていると言われて久しいテレビ業界においてこのような金のかかる制作方式を取れるのは、よほどの自信があり、かつ高視聴率が安定して取れ予算もかけられるTBSの強みなのかもしれませんね。
というわけで、昨今のドラマ業界における章仕立てドラマについての考察でした。