Netflixオリジナルのドラマが群雄割拠する中、ひと際異彩を放っているのが近未来SFドラマシリーズ「BLACK MILLER/ブラック・ミラー」です。毎回一話完結のオムニバスドラマとなっていて、現時点でシーズン4まで制作されていますが、ハズレの回がないのではないかと思うほど毎話楽しんでいます。
最悪な後味が最高のディストピアSF
ブラック・ミラーは直訳すると「真っ黒な鏡」。イギリスを舞台に、毎回何かしらのテクノロジーが発達した近未来が描かれるのですが、そのタイトルの通り、発達しすぎたテクノロジーによって人間の本質が炙り出される皮肉な展開がキャラクターたちを襲います。
製作総指揮のチャーリー・ブルッカーによれば、「それぞれのエピソードは異なるキャスト、異なる設定、異なる現実ですが、私たちが不器用であるならば、それらのエピソードは私たちの今の生き方、そして私たちが生きるであろう10分後を表している」とのこと。
シーズン1のたった3話を完走すればこの言葉の意味が嫌というほどわかると思います。いくら技術が発達しても、それを使うのは人間。
しかも登場するテクノロジーは、ドラえもん的な何でもアリの道具ではなく、今身の回りにある技術の延長線上にあるものばかり。つまり、後10年20年待てば実現しそうなものなのです。
飛びぬけた明るい話を好む人にはもしかしたら向かないかもしれない(そもそもNetflixオリジナルに底抜けに明るいドラマがあるのか)ですが、だんだん「ブラックミラー慣れ」してくると、この素晴らしい技術がどんな風に暗転していくのだろう、とよくわからない期待を持って見れるようになってきて楽しいですよ。
それでは、各話のオススメ度と共に、シーズン1の3話をご紹介。
第一話 国家
あらすじ
国民に人気抜群のスザンナ姫が誘拐された映像を見せられた英国首相。ツイッター文化を背景に犯人探しが始まる。犯人は誰なのか、そしてその目的は?(Netflixより)
解説
第一話はツイッター文化が発達した先の未来です。おそらくこれは現代でも通用する話で、シーズンの中でも一番近い年代のエピソードだと思います。お話を見ればわかりますが、これは完全にダイアナ妃にまつわるパパラッチの問題をバックボーンに持つイギリスらしい舞台設定ですね。
英国首相に突き付けられた要求は「首相が豚を犯している様子を生中継せよ」。あまりに素っ頓狂な要求内容に閣僚たちも半信半疑。しかしだんだんとそれが本気だということがわかってくると、CG合成してごまかそうとか、実際にやらせるにしてもどうやって視聴者に目を背けさせようかとか、様々な対応策が出てきます。
その駆け引きの面白さもさることながら、見事なのはオチのつけ方。「首相が豚を犯す生中継」の話から、現代のワイドショー文化への痛烈な皮肉へと持っていきます。私はこの話を見てブラックミラーシリーズの虜になりました。
たった45分でここまで濃密な話を作ることができるのかという衝撃もありましたし、今までドラマを見てきた中で一番後に引きずったかもしれません。
オススメ度:★★★★★
大抵のドラマは、シーズンを通してみてもらうために第一話に最も多くのリソースを割くため、後に続く話が大したことがないこともあります。正直このシリーズもそうではないかという疑念を持っていたのですが、第二話もえげつない衝撃が待っていました。
第二話 1500万メリット
あらすじ
極度の管理社会で暮らす人々の唯一の脱出手段はオーディション番組に出演しスターになること。しかし優勝者には予期せぬ残酷な状況が待っていた。(Netflixより)
解説
第二話はオーディション番組がテーマです。スーザン・ボイルが出たような、特技を披露してそれをプロに評価してもらえたらデビューが決まるやつですね。第二話の世界では、人々が謎のマンションに暮らしていて、自転車を漕ぐ仕事をしています。その距離に応じてポイント(単位はメリット)がもらえて、すべての生活がポイントで賄われている。
唯一の娯楽としてテレビのようなもののチャンネルがあって、そこに出演しているのはオーディションを勝ち抜いてチャンネルを獲得した人ばかり。Youtuberの延長線上みたいな感じです。マンションの外の世界はなく、与えられた選択肢は自転車を漕いで動画を見るか、チャンネルの出演者となるかの2択のみ。
明らかに緩やかな奴隷労働なんですが、その生活から脱するためにはオーディション番組で認められる必要があって、タイトルの1500万メリットはそのオーディションに出る権利の値段です。人々はせっせと自転車を漕いでメリットを貯め、今の生活を抜け出すために特技(歌とか)を磨きます。
てっとり早く奴隷状態を抜け出す方法としては、女性がアダルトチャンネルの出演者になることがあるのですが、主人公が恋をした女の子がオーディションを勝ち抜いた結果そのチャンネルに出演させられていることを発見。主人公は狂った管理社会に怒りをぶつけるため、オーディションに出演します。
あまりに作りこまれた管理社会のシステムをただ見ているだけでも驚きがあって面白いのですが、ここからお話が飛躍して目が離せない展開に。やはりここでも、極端な未来社会から、流行り廃りが激しいSNS社会に対する疑問のようなものを提示して話が終わります。
十分面白いのですが、ブラックミラー全体のレベルが高すぎるので平均的な評価です。Youtubeとかオーディション番組とかが好きな人はもっと楽しめると思います。
オススメ度:★★★☆☆
そして、シーズン1の最後を飾るのは、「あ、これあの映画じゃん!」と意外な角度から突っ込んできた良作です。
第三話 人生の軌跡のすべて
あらすじ
時は近未来、自分の記憶をすべて録画再生できるチップを体に埋め込み、他人との交流に利用する人々。しかし、過去の思い出がもたらす悲劇とは・・・?
解説
シーズン1の中では最も未来感のあるエピソードです。人の記憶を全て記録するチップがあり、それをいつでも再生できるようになった世の中が舞台。主人公は面接の手ごたえを確かめるために面接時の記憶を再生していましたが、その他にも飛行機登場前に2週間分の記憶を見せてテロ対策にしたり、便利だなあと思わせてくれます。そのうちAppleが作りそうですよね。
このエピソード、オチは「そりゃそうだよ」ってなるような、全部記憶してたら埒が明かないよねというものなのですが、それに至るまでの描写がめちゃくちゃ面白いです。
冒頭、主人公が彼女の昔の仲間たちの集まりに呼ばれて食事をします。そこではなんのことはない会話が交わされて、彼女は昔こうだっただの、その仲間内での交友関係はどうだっただのひたすら喋りが続きます。そこでは記憶チップにまつわる問題点や、あえてチップを入れない選択をした人々(今でいうと、SNS断ちをした人みたいな立ち位置ですね)のことも語られ、飽きはしないのですが「必要なシーンかなこれ?」と思うくらい長く続きます。
そこから、「カメラを止めるな!」になります。
詳しいことを語るとカメ止めのネタバレになるので言わないでおきますが、構造がまったく同じです。
すべて記憶できてしまう世の中とは、現代で言えば自分の足跡を逐一SNSで残せてしまうのと同じで、そうなるとすべてのささいな会話において言質が取れてしまうんですよね。人生を通して言動が一致する人なんていないですから、粗を探せばいくらでも見つかる。それを極限まで表現したのがこの第三話だと思います。
見ていただければ「カメ止め」の意味もわかりますし、最も「ブラックミラー」らしい要素がふんだんに盛り込まれたエピソードなのでこれもおすすめです。
オススメ度:★★★★☆
今回はシーズン1のエピソードを紹介しましたが、現時点でも4つのシーズン、エピソードは13個と、長いドラマの1シーズン分のボリュームで完走可能です。毎回テイストも違うので、何かの話でピタリとハマるものがあると思いますよ。