現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「サーチ」SNS時代を描く新しい映画の形

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 全編を通してPC画面のみで物語が進む革新的な映画「search/サーチ」。

 妻と早くに死別してしまった父親が、娘・マーゴットの失踪事件をきっかけにして彼女のSNSを捜索して回ることになり、今まで知らなかった娘の姿を知ってしまう、、、

 この筋書きだけを見ると、「へぇー現代チックな話だね」くらいで終わりそうなものですが、小規模公開から口コミで大ヒットを飛ばした本作はそこからさらに何歩も踏み込んだ表現をしていました。

 

 

 

作品情報

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タイトル:サーチ (原題:search)

 

上映時間:102分

 

監督:アニーシュ・チャガンティ

 

主演:ジョン・チョウ

   デブラ・メッシング

 

製作国:アメリカ(2018年)

 

ユニークなスタッフ・キャスト!

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 本作の大きな特徴と言えるのが、

製作陣に有名どころのスターや監督が一人もいない

 この点でしょう。主演のジョン・チョウは韓国出身ですし、監督のアニーシャ・チャガンティはインド系アメリカ人です。製作にティムール・ベクマンベトフ(ナイト・ウォッチとかの監督)が入っていて、クレジットを見ていてピンと来るのは彼くらいです。

 

 マーケティング的にはかなり不利な状態でアメリカで公開されたわけですが、話題が話題を呼んで、全国で公開されることになりました。

 この現象、日本でいうと「カメラを止めるな!」と似ていますね。最近はSNSの発達によって、内容がいい映画が以前よりも発見されやすくなりました。

 また、目立ったスター俳優がいない点は、アジア系の俳優で固めて特大ヒットを飛ばした「クレイジー・リッチ!」にも通ずるところがあり、今年はヒットする映画の法則が崩壊したエポックな年とも言えますね。

 

異色の経歴を持つ天才監督

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 そんな本作を監督したのが、前述の通りインド系アメリカ人のアニーシュ・チャガンティ。

 インドをルーツに持つアメリカの映画監督はかなり珍しいですね。

 彼が一躍その名を轟かせたのは、全編google glassによって短編映画を撮影したことでした。その映像がこちらから見れます。

 


'Seeds' - a short film via Google Glass by Ginger Times

 

  この頃から、「全編〇〇映画」へのこだわりを持っていたのかもしれませんね。

 チャガンティ監督はこれがきっかけでgoogleのCMを監督したりしています。

 「サーチ」自体も、冒頭部分は家族の思い出写真を見ながら主人公となるキム一家が今どんな状態にあるのかを説明する構成になっていて、非常にGoogleのCMっぽいんですよね。

 

 初監督作となった「サーチ」で、新人監督の登竜門であるサンダンス映画祭の観客賞を受賞しています。映画好きの方は聞き覚えがあるかと思いますが、この映画祭はアカデミー賞との結びつきが非常に強く、「ラ・ラ・ランド」を撮ったディミアン・チャゼルもサンダンスで一番はじめに注目されています。

 多少ジンクス的な話になってしまいますが、チャガンティ監督の名前も覚えておくと、近い将来アカデミー賞で聞くことになるかもしれませんね。

 

あらすじ

 物語がすべてパソコンの画面上を捉えた映像で進行していくサスペンススリラー。16歳の女子高生マーゴットが突然姿を消し、行方不明事件として捜査が開始されるが、家出なのか誘拐なのかが判明しないまま37時間が経過する。娘の無事を信じたい父親のデビッドは、マーゴットのPCにログインして、Instagram、Facebook、Twitterといった娘が登録しているSNSにアクセスを試みる。だがそこには、いつも明るくて活発だったはずの娘とは別人の、デビッドの知らないマーゴットの姿が映し出されていた。「スター・トレック」シリーズのスールー役で知られるジョン・チョウが、娘を捜す父親デビッド役を演じた。製作に「ウォンテッド」のティムール・ベクマンベトフ。Googleグラスだけで撮影したYouTube動画で注目を集めた27歳のインド系アメリカ人、アニーシュ・チャガンティが監督を務めた。(映画.comより)

 

全編PC画面映像の衝撃

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 やはりこの映画は史上初めて、全編PC画面で進行させたことが大きな発明でしょう。

 

 見る前は正直言って、

技術先行型で尻すぼみになっていくタイプの映画だろ

 と思っていました。

 

 しかし、その不安はいい意味で裏切られました。

現状で、PC画面を使った演出として考えられるギミックをフル稼働させています。

 

 これが本当に衝撃で、基本的にはカメラはフェイスタイムの画像を中心に人の行動を移していくのですが、

 インスタグラムあり、生配信あり、Google MAPありと、動かないはずのPC画面が奥行きを持ってぐんぐん動く。

 その使い方も一つ一つが考えられていて、「そうきたか!!」と膝を打つ場面が何度もありつつ、「あ、これ真似したい」と思わせてくれる箇所もあります。

 

 そして、この映画が本当に狙っているのは、

 

DVD発売や配信後、実際のPCモニターで鑑賞すること

 

 だと思われます。今まで映画は映画館で見るものとして想定するのが当たり前でしたが、全編PCモニターで進行する映画を鑑賞する正解の手段は、もちろんPCモニターになりますよね?

 これは例えばスマホ専用の縦型PVとかが出てきたときと同じように、

新しい鑑賞スタイルに適応した初めての映画

 と言うことができるでしょう。

 

 そんなことを考えて、今からDVDの発売が待ちきれないです。

 

ネットの情報をどこまで信用するか?

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 こんにちは、フリー素材の女です(映画参照)。 

 

 「ネットリテラシー」なんて言葉が使われるようになってもう数年が経ちましたが、本作ほどこの言葉の意味をダイレクトに伝えてくる映画はないと思います。

 

 私たちがネットを使うときって、大部分が「下調べ」だと思うんですよ。

 ググった情報をそのまま飲み込んだりはしないけれど、色々調べた結果を総合して自分の頭でまぜまぜして「知識」に変える。

 例えば過去の新聞記事だったり、ネットメディアの情報だったり。

 ネットに落ちている情報の全てが正しいわけじゃないなんてことは当然知っているから、土台的な情報だけを吸収して自分の脳内を一回かませるけれども、

 

 もし、その土台すら作られたものだったとしたら?

 

 私たちがネットを見るときに「ここは嘘をつけない最大公約数」的な認識って知らず知らずに持っていると思うんですよ。でも、実はそれすら最大公約数じゃない。

 そうなったときに、私たちが検索(search)している情報とは、一体なんなのだろう?

 

現代版「裏窓」

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 映画を見ているときに、しきりに頭をよぎったのが、ヒッチコックの「裏窓」でした。

 足を骨折して動けなくなり、窓から外の景色を眺めているうちに、向かいの男性が奥さんを殺害したのではないかという疑いを持ってしまう、、、

 

 そんなあらすじの傑作サスペンスです。

 主人公のジェームズ・スチュワートは作品中、一歩も(実質ですよ)この画像の部屋から出ません。ただ双眼鏡を使って向かいの部屋を見るだけの「全編窓から見た景色」映画なのです。

 

 この構造を現代にもってくると「全編PC画面」になるのかな、と思いました。

 

 ヒッチコック曰く「映画の本質は覗き見だ。人は他人の生活を覗き見するために映画館に足を運ぶ」のだそうです。

 だとしたら、現代における最高の覗き見とは人のPCを見ることなのかもしれませんね。

 

 というわけで、過去の名作のアップデートの匂いも感じさせつつ、DVDを手にとって自宅のモニターで見たくなるような作品、「サーチ」でした。