現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「アリー/スター誕生」監督・ブラットリークーパーと女優レディガガの誕生!(ネタバレなし)

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 10/24(木)からTOHOシネマズ六本木にて開幕した第31回東京国際映画祭。

 そのオープニング作品として上映された「アリー/スター誕生」。チケットをなんとか手に入れて、日本最速で見てきました!!

 

 日本では12/21から上映の本作は、すでに「アカデミー賞10部門ノミネート」間違いなしなどの声も上がっているほどの話題作です。

 オープニング上映が終わった後、その評判に違わぬ映画の素晴らしさに劇場のあちこちから嗚咽が、、、というか嗚咽というより、

 

 うぐ、、ひっぐ、、、ぐず、、、、、

 

 などの声にならない余韻がかなりの音量でこだましてました。

 もちろん私もそのぐずぐず仲間の一人。いや、素晴らしかった。

 10部門とはいかないまでも、

 

・作品賞 ◯

・監督賞 △

・主演男優賞 ◎

・主演女優賞 △

・歌曲賞 ◎

・編集賞 ◯

・撮影賞 ◯

・音響編集賞 ◎

 

 くらいの感じで、5〜7部門ほどノミネートされた末にブラッドリー・クーパーが主演男優賞候補の一角、歌曲賞は確実、という形で今年のアカデミー賞に参戦してくるのではないかと予想しています。

 

 この映画を表現するならば、

 

 ブラッドリー・クーパーが今までやってきたこととやりたかったことを全部盛り込んで、器から漏れ出た要素をレディガガの反則的な歌唱力で押さえつけて超超高圧縮した映画

 

 と言えます。それくらい全場面の情報量が多いため、夢中になって見ているうちにあっという間に映画が終わって気が付いたら泣いていた、というのが私の率直な感想です。

 そして、俳優としてのブラッドリー・クーパーだったり、歌手レディ・ガガへの思い入れが大きい人ほどこの映画から感じ取れるものが多くなると思います。

 

 つまり、予習すればするほど面白い、ということですね。

 

 では、本作の見所&見ていて感じた予習ポイントなどを、ネタバレなしでご紹介していきたいと思います。

 

 

作品情報

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 アリー/スター誕生 (原題:A STAR IS BORN)

 

 上映時間:136分

 

 監督:ブラッドリー・クーパー(初監督)

 

 主演:ブラッドリー・クーパー

    レディ・ガガ

 

 製作国:アメリカ

 

 


映画『アリー/ スター誕生』予告【HD】12月21日(金)公開

 

あらすじ

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 歌の才能を見いだされた主人公がスターダムを駆け上がっていく姿を描き、1937年の「スタア誕生」を皮切りに、これまでも何度か映画化されてきた物語を、新たにブラッドリー・クーパー監督&レディー・ガガ主演で描く。音楽業界でスターになることを夢見ながらも、自分に自信がなく、周囲からは容姿も否定されるアリーは、小さなバーで細々と歌いながら日々を過ごしていた。そんな彼女はある日、世界的ロックスターのジャクソンに見いだされ、等身大の自分のままでショービジネスの世界に飛び込んでいくが……。世界的歌姫のガガが映画初主演でアリー役を熱演。もともとはクリント・イーストウッドが映画化する予定で進められていた企画で、「アメリカン・スナイパー」でイーストウッドとタッグを組んだクーパーが初監督作としてメガホンをとり、ジャクソン役でガガとともに主演も果たした。

 

主演・監督ブラッドリー・クーパーの才能

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 今作の見どころとして外せないのは、レディ・ガガが歌手役で登場することはもちろんですが、ガガ演じるアリーを見出す人気アーティスト、ジャック役を演じるブラッドリー・クーパーです。

 

 元々は俳優として何度もアカデミー賞にノミネートされる名優だったブラッドリー・クーパー。その彼がついにメガホンをとったのがこの「アリー」なのです。

 この映画のストーリーは、表向きはスター誕生。つまり、アリーがいかにスターダムにのし上がっていくかのお話なのですが、その裏には監督であるブラッドリー・クーパーの役者人生が投影されているように感じました。

 

数々の天才たちと渡り合った俳優

 元々俳優をやっていて、芽が出なくて監督になった人は結構いるものですが、俳優として成功していて監督までやってしまう人は実はそんなにいません。実際ライアン・ゴズリングとかも監督作を出しているのですが、そこまで作品としての評価は高くないです。

 

 しかしブラッドリー・クーパーの場合、今まで仕事をしてきた名監督たちのエキスを吸収したかのような演出が随所に見られ、彼の演技を見てきた人たちからすると、「あ、これはあの映画のあのシーン」という場面が結構出てきます。そしてそれぞれの監督のオマージュに留まらず、しっかりと自分の映像として表現できているからこそ監督としても成功したのだと思います。

 

 では、彼のフィルモグラフィを見ていきます。

 

ハングオーバー!シリーズ

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 私を含め多くの人がブラッドリー・クーパーを知ったのはこの映画ではないでしょうか。

 伝説的な二日酔いコメディ「ハングオーバー」シリーズ。

 結婚式前日の「独身最後の夜」で酒を飲んで羽目を外しすぎ、とんでもないことになってしまう傑作コメディです。

 この主演を務めたのが彼で、日本でもそうですがアメリカでもこれをきっかけにブレイクしたんですね。

 オススメは1の正統進化(という名のやりたい放題)を遂げたハングオーバー2です。3はちょっと趣向が変わった成長モノになっています。

 

世界に一つのプレイブック

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 コメディ俳優としてのイメージが強かったブラッドリー・クーパーは、この映画でその演技力を轟かせます。

 

 主演させた俳優を必ずアカデミー賞にノミネートさせる名監督デイビッド・O・ラッセルの作ったドラマ、「世界に一つのプレイブック」。

 本作で共演したジェニファー・ローレンスが、史上最年少でアカデミー主演女優賞を取り、ブラッドリー・クーパー自身も主演男優賞にノミネートされています。

 

 この映画は、双極性障害(躁鬱病)から立ち直るべく、夫を亡くして同じく精神障害を患った女性と社交ダンスに挑戦するというものです。

 私はアリー含めてこのブラッドリー・クーパーの演技がマイベストですし、公開から5年以上経った今でも何回も見返してしまうほど大好きな映画です。

 

 自分の不安定な精神をなんとか落ち着けよう、克服しようともがき苦しむ男の姿を、爽やかでユーモラスに演じていて、この俳優さんの出演作はチェックしていこうと決めたものでした。

 

アメリカン・ハッスル

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 「世界に一つのプレイブック」の翌年、同じくデイビッド・O・ラッセルが監督する「アメリカン・ハッスル」に出演しています。

 

 超凄腕詐欺師のお話なのですが、なんとこの作品でアカデミー主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞の全てにノミネートされるという快挙をやってのけています。

 ブラッドリー・クーパーは助演男優賞でノミネートされましたが、惜しくも受賞ならず。

 とにかく、演出に関してはデイビッド・O・ラッセルがアカデミー賞請負人とでも言えるくらいのレベルで、俳優陣の白熱する演技合戦を見ているだけで面白い映画です。

 

アメリカン・スナイパー

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 2年連続でアカデミー賞にノミネートされるも、受賞を逃したブラッドリー・クーパーは、自らが熱望する人物の伝記映画に出演します。しかも、監督はあの巨匠クリント・イーストウッド。彼自身も主演と監督を務めるハイブリッドなおじいちゃんなので、このタイミングでアリーの構想は持っていたのでしょうね。

 

 イラクで伝説のスナイパーとして名を馳せた男を演じ、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。これで3年連続3回目の演技賞ノミネートを果たしています。

 現在43歳ですから、今回もおそらくノミネートされて受賞されるかどうかというところなので、このままメリル・ストリープ化していってほしいものです。

  

 この作品では今までのコミカルなキャラクターとは打って変わって、イーストウッドが繰り返し描いているPTSDになった元アメリカ兵をリアルに演じました。

 戦場から帰ってくるたびにどんどんおかしくなってしまう演技は、空恐ろしいものがあります。

 

ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー

 

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 真ん中の人はクリス・プラットですので間違えないように!!

 

 マーベル作品にも出演しているのですが、アライグマのロケットの声をあてています。

 最近のジェームズ・ガン解雇騒動の時にも、ガーディアンズの一員として連盟で声明を発表したりしていましたね。

 

 こんな風に、かなり幅広い役柄を演じてきています。

 

俳優から監督へ

 まだ公開まで時間がありますので、デイビッド・O・ラッセルとやった2作品と、アメリカン・スナイパーはぜひ見てください。

 というのも、アリーの中でデイビッド・O・ラッセルからはキャラクターの作り方、イーストウッドからは撮影技法を学んでいる印象が強いからです。

 

 スター誕生でクーパーが演じたジャックというキャラクターは、酒浸りで耳がどんどん聞こえなくなっていく男という設定になっています。

 何かに追い込まれて必死に抗おうとするキャラクター設計は実にデイビッド・O・ラッセル的です。

 

 また、本作ではカメラが「ジャックから見た目線」として使われていて、常に登場人物の30センチほどをつきまとっています。

 これは早撮りの達人であり、手持ちカメラでの撮影に熟達したイーストウッドの撮影技法から影響を受けたと見られます。

 

 また、一箇所ジャックがマリファナを鼻から吸引するシーンがあるのですが、その仕草が完全にハングオーバー!を想起させるものになっていたりして、ところどころにやりとします。

 

 こんな風に、彼自身の俳優としての足跡を非常に強く感じられるのが「アリー/スター誕生」だと思いました。

 

レディ・ガガというリーサルウェポン

 「じゃあ、レディガガのことは何も知らなくて大丈夫なの?」

 と思う方がいるかもしれませんが、この点ははっきり言えます。

 

 開始10分問答無用で凄さがわかるので知らなくていいです

 

 昔ウェイトレスをやってたとか、どうやってチャンスを掴んだかとか、ガガに関する秘話はウィキペディアとか見ればすぐわかると思いますし、おそらくそれにモロ映画も被せてきてるのでしょう、ええ、わかりますよ。

 

 でも、そんなこと関係ないんです。

 

 あまりにもアリーの歌唱力が素晴らしすぎて、まったく文脈関係ないのに泣きそうになります、というか、泣きます。

 

 レディ・ガガって本当に歌上手いんだなー

 

 という、あまりにも当たり前の事実に打ちのめされます。

 ブラッドリー・クーパーが演じる、レディ・ガガが歌う。それだけで圧倒されます。見ている最中、永遠に巨大なハンマーで叩かれつづけているかのような衝撃。

 

 正直、歌を歌うだけでここまで人の心を動かせるのならば、ドラマなんて必要ないんじゃないかとすら思えました。

 

 そんなパワーを持つ声を持つ人が、最高の流れで最高に心に響くようにお膳立てされた筋書きの中で歌を歌うわけだから、感動しない訳が無い。

 

 ストーリー自体は、少し見ていれば読めてしまうんです。

 でも、その読めたはずの、わかっていたはずの展開をブラッドリー・クーパーが毎回200%の演技を被せてきて、レディ・ガガが情感を5次元くらい高める歌唱を披露するものだから、もう展開が読めるとかそういう話をはるかに超えてきます。

 

 おそらく日本でもかなりの人気を得て、再びのガガブームを巻き起こす予感がビンビンする「アリー/スター誕生」。ぜひ、大スクリーンで見ましょう!!!