「獣になれない私たち」第一話を見終わった後、ガッキーの新境地とも言える深海晶、松田龍平のすべてを達観したような表情、脚本・野木亜紀子さんの前作「アンナチュラル」から続くような「クソ」で溢れる社会の描き方など、あまりに衝撃的かつ内容盛りだくさんなこのドラマをもっと掘り下げてみようと思いました。
種類豊富なクラフトビール、昌の過去、昌を取り巻く人々の関係……。
けもなれワールドを徹底的に考察して、今後の展開を予想(という名の妄想)してみましょう!
あらすじ
IT企業「九十九クリエイティブ・ジャパン」で営業アシスタントとして働く深海昌(新垣結衣)。何があってもいつもニコニコとした人の好さから、パワハラ気味の社長から突如押し付けられる仕事や、やる気のない同僚の尻ぬぐいを全て背負っていた。会社にいない時でさえ心を休ませてくれないLINE通知、ピリピリした満員電車。そんな日々を生き抜く昌の救いの場が、クラフトビールタップの「5tap」だった。
嵐のような一日を終え、5tapにたどり着いた昌。そこには常連の恒星(松田龍平)がいて、気遣いを絶やさない昌を「完璧な笑顔が嘘っぽい。キモイ」と表現しているところを聞いてしまう。たった一杯飲んだだけで店を出た昌の後ろ姿はさみしく、恒星が言ったことを一番わかっているのは彼女自身なのだった。
恋人の京谷の母、千春と3人で食事をした日、千春に執拗に迫られて、昌は自分の過去について語り始める。父は暴力をふるう人で、母は離婚後マルチ商法にはまり、今は縁を切っていると。周りに非を求めない昌の性格は、そんなツライ家庭環境の裏返しなのかもしれない。正直に出自を打ち明けた昌を千春は気に入り、しきりにLINEをするようになる二人。話題はもっぱら京谷との結婚のことで、昌のアパートの更新が近いことを伝えると、「京谷のマンションに住んだらいい」と勧めてくる。しかし京谷は元恋人の朱里に自宅を占拠されていて、京谷自身にも二人で暮らすような積極性は見られない。
そんな風にストレスがたまる日々が極限に達したのが、金曜日のことだった。後輩の新人上野のミスをカバーするために奔走し、営業先で別の同僚である松任谷の尻ぬぐいもすることになる昌。修正作業は深夜まで及び、詫びを入れた先方も昌にセクハラをする始末。終電で帰ろうとする昌をさらに追い詰めたのは、限界の彼女をさらに叱責する九十九や、結婚を迫る千春のLINEだった。彼女は電車のホームに飛び込もうとまでしてしまう。すべてに疲れ果て、終電を逃した昌は5tapに駆け込む。
店に入った昌に、いつもの張り付いた笑顔はない。マリッジブルーとか茶化してくる恒星に、彼女は静かに本心をぶちまける。「結婚したかったけど、今は恋がしたい」
店を出た二人。事務所へと誘う恒星を軽くあしらった昌に、彼は「馬鹿になれたら楽なのにね」とつぶやいて、去っていく。昌は帰り道、恒星の元彼女である呉羽がモデルを務めるファッションの広告を見つける。
次の日、昌は広告の通りの奇抜なファッションで出社する。唖然とする社員を尻目に九十九のデスクへと向かい、業務改善要求書を突き付ける昌。こうして彼女は、「笑顔の張り付いたキモイ女」から「獣」になるべく変わり始めたのだった。
第一話に登場したクラフトビールと、その元ネタ
野木亜紀子さんが描くドラマの特徴として、「食」が人物を示すキーアイテムになっていることがあげられます。それは「逃げ恥」でみくりが作る食事や会社に持ち寄るお弁当だったり、「アンナチュラル」でクソみたいな日常から逃れるため、生きるために石原さとみが食らう飯だったりします。「けもなれ」ではタクラマカン齊藤がマスターを務めるクラフトビールバー「5tap」のクラフトビールが第一話から何度も登場してきました。その名前については野木さんがツイッターで発言しており、それぞれ実在のモデルがある、と語っていました。では、劇中での名前と、その元ネタを調べてみましょう。
クラフトビールについて
クラフトビールとは、わかりやすい言葉で言えば地ビールのこと。大手のメーカーが作るビールとは違い、中小や個人の醸造家が製造したビールのことを指します。地ビールと呼ばれていた時代はその単価の高さなどから一時は人気が低迷しましたが、ベルギービールの流行に伴って名前もクラフトビールと呼ばれるようになり、また需要が増しているそうです。5tapは全国各地からクラフトビールを仕入れて、それをお客さんに振舞っています。
その名前も、例えば「志賀草原 ポーター」だったら、
志賀草原→醸造所の名前
ポーター→ビールの種類
という見方をします。「ハーゲンダッツ イチゴ味」の表記と同じ感じですし、「カール キーマカレー味」と同じです。
後ろにつく種類については、クラフトビールの代表的なものとして、
ピルスナー
ペールエール
フルーツビール
ヴァイツェン
IPA(インディアン・ペールエール)
などがあり、今回はバランスよくでてきてますね。
では、一つ一つ見てみましょう。
KAGUYA ルージュスペシャルエディション2017
冒頭、呉羽が結婚祝いと称してタクラマカンに入れてもらったものです。
元ネタ:KAGOYA 狛江ポップ 2017
東京にある醸造所、籠屋が作った狛江ポップかと思われます。ルージュ~の部分は創作だと思いますが、KAGUYA→KAGOYAともじったものでしょう。
レアード ペールエール
序盤で昌が一杯だけ飲んだ時に出てくるビールです(タップ1)。
元ネタ:ベアードビール ペールエール
こちらは静岡県にある有名な醸造所みたいですね。野木さんのことだから映画ネタで「レアードの朝」関連かと思いましたが、そこまでトリッキーな仕掛けではありませんでした(勝手な思い込みです)。
志賀草原 ポーター
レアードと同じシーンで恒星がおかわりするビールです(タップ5)。
元ネタ:志賀高原ビール ポーター
これは一番最初に見つけました。草原→高原なのでなんとなくの見当はつきました。
太平洋クラブ ヴァイツェン
昌がヤケ酒をするシーンの、タップ1の中身です。
元ネタ:Heart&Beer 日本海倶楽部 ヴァイツェン
太平洋→日本海の、日本を囲む海つながりです。もじりの一つのパターンとして、○○クラブで、しかも海関連、と見立てて探したら、ありました。
しかとら セゾン
昌のヤケ酒、タップ2の中身です。
元ネタ:うしとらブルワリー セゾン
栃木の醸造所です。牛が鹿になりましたね。セゾンとは、季節限定とかそういう意味のようです。
京都ビア みのるIPA
昌のヤケ酒、タップ3の中身です。
元ネタ:京都道の駅「食のみやこ」??
京都ビアは京都醸造所とかかな、と何となく考え、みのるIPAは商品名だと思われるのですが、それらしいものが見当たらず、、みのるは人の名前ということで個人の醸造家が作ったもので、人名の別のものを探したのですがしっくり来ず。結局みやこ→みのるという若干無理やりな推理をしました。これに関しては、何かもっとそれらしいものがあるのでしょうね。
昌と京谷はどんな関係性なのか?
京谷側に結婚の意思はないことはわかりつつも、そこまではっきりしたことがわからなかった二人の関係性。千春との3人での食事シーンにヒントが多くあったので、解説してみます。
交際期間は?交際のきっかけは?
まず期間については、アパートの2回目の更新を間近に控え、その前から一緒に暮らそうとしていたことから、4年以上の付き合いであることがわかります。劇中の二人の年齢はアンダー30からちょっとはみ出すかはみ出さないかくらいだと思われるので、結婚しないならいっそ別れてしまった方が、、と言いたくなりますが、昌が優しすぎて切り出せないか、京谷といる時間が居心地がよくてわざと曖昧なままにしておいたのか、色々考えられますね。
また、千春の「今は京谷と別の会社にいるの?」というセリフから、元は同じ会社で働いていたことが推測されます。元の職場で出会って付き合うようになり、昌が退職して九十九の会社に転職したということでしょうか。昌の母親との関係もよく知っていたことから、「会社にまでマルチ商法の在庫を売り込みに来ていた」先が元の会社で、そのことがきっかけで退職せざるを得なくなったことも十分考えられますよね。
昌の母親とのかかわりは?
中盤で明かされる昌の家族関係。幸せな家庭環境ではなかった彼女の人生が、もしかしたら結婚への二の足を踏ませる理由になっているかもしれませんよね。こちらは「実家を出てから6年会っていない」と昌のセリフがあります。そうなると、前述の「商材を売り込みに来た」事件は6年以上前。京谷と出会った会社がそこだったとしたら、二人は6年以上の付き合いということになりますが、、、もしかしたら別の会社かもしれません。
京谷の家に居座る朱里について
こちらはその存在が明かされたにとどまる「赤っぽい名前の女」、朱里ですが、これが京谷が昌と結婚しない理由の一つなのでしょう。昌と京谷の交際期間が少なくとも4年以上だということを考えると、実に4年も引きこもってオンラインゲームに熱中していることになります。一体彼女に何があったのか、、、また、昌自身もその存在を知っているため、昌が朱里との間に何らかの関りがあるように思えます。昌の母との関係同様、今後の展開で明らかにされていくのでしょう。
呉羽は何の会社を設立したのか?
恒星に法律的なチェックをお願いしていた呉羽ですが、その会社名は「メタモルフォシス」であることがちらっと見えます。そして、ラストに彼女自身がメタモルフォシスのモデルを務めていることがわかりました。おそらくファッションブランドを立ち上げたようですが、そこに彼女が結婚した橘の存在が気になって仕方がありません。交際0日で結婚したというのも、何らかの打算があったのかもしれないと考えれば(呉羽の破天荒な性格を表現するために交際0日にした可能性もありますが)、橘は呉羽との結婚を引き換えに、呉羽のブランド立ち上げのパトロンになったと推測できないでしょうか。そうなると、この橘も今後登場することが予想されます。
「獣」とは、何のことなのか?
上記のように、様々に興味深い点はありますが、ドラマ初回を見て最も疑問として残ったのが、タイトルである「獣になれない私たち」です。このタイトルを分解すると、大きく分けて2つの疑問が浮かんできます。
疑問1「獣」とは、何を指すのか?
疑問2「私たち」とは、誰のことか?
もちろんこれがすべて第一話でわかったらそれで連ドラ終了なので現段階でわかることだけを考察しますが、恒星の口から疑問1のヒントがあったと思います。
それは、今回最も感動的で、昌と恒星二人の絶望的な苦悩が垣間見えたシーン内でのセリフです。
終電を逃した昌と帰る恒星。事務所前で、昌を誘うと、あっけなく断られる。そこからのやりとり。
昌「ビール3杯じゃ酔わないし、店から徒歩3分の間にたぶらかされるほど馬鹿じゃない」
恒星「馬鹿じゃないの?」
昌「馬鹿じゃないです」
恒星「馬鹿になれたら楽なのにね」
このシーンは今回最も美しく、感動的でありながらも、なんて悲しいやりとりなんだ、と涙が出ました。
周りに流されて、器用に生きられるとしたらどんなに楽だろう。ツラいことであふれる日常を、軽く笑い飛ばして生きていけたらどんなに楽しいだろう。馬鹿になれたら、もっといろんなことに鈍感になれて、自由に生きられたら、どんなにいい人生になるだろう。
私はそんな風に解釈しました。このセリフは、今まで決して馬鹿になることができなかった、馬鹿を冷笑して生きてきてしまった恒星の心の叫びのようにも聞き取れます。
つまり、「獣になれない」とは、「馬鹿になれない」に近い意味もあるのではないでしょうか。
もちろんこれは第一回の中で考えただけのものですが、実際に昌は「馬鹿になる」ことの第一歩として、派手なファッションに身を包んで反抗を始めました。
疑問2の「私たちとは誰か」も、現段階では昌と恒星二人を指しますが、これから「獣」の意味も広がってくるにつれて、「私たち」の範囲も拡大してくるでしょう。
「アンナチュラル」で、法医学ミステリーを基盤にしながら、社会にねばりつく「クソ」みたいな生きづらさを描いてみせた野木さんが、このタイトルをどんな風に作り変えていくのか、楽しみですね。
というわけで、ほかにも見立てによっては疑問点がわいてくるでしょうが(人妻オッケーの三郎とか)、第一回はここまでとします。毎週水曜日が待ちきれない!