現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

現実とフィクション、二人のクリストファーロビン

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 今、一人の人物を巡ってまったく正反対の映画が公開されていることをご存知でしょうか?

 

ディズニー映画「プーと大人になった僕」と、イギリス映画「さよならクリストファーロビン」。この2作品はどちらも、「くまのプーさん」に出てくるあの少年、クリストファーロビンを描いた映画です。ディズニー版は劇場公開中、イギリス版はDVDスルーという形で、日本での劇場公開を経ずにレンタルが開始されています。

 

あまりにも対照的な2作品

 

 「プーと大人になった僕」は、CMなどでも多くの方が見たことがあるかと思います。設定としては、アニメの中の少年クリストファーロビンが大人になって日々の仕事に疲弊し、子供の頃持っていた豊かな想像力が失われてしまったというものです。彼が100エーカーの森を去ってからも相変わらずの生活を送っていたプーさんとその仲間たちが、ひょんなことから(本当にひょんなことというか、なぜなのかはわかりませんでしたが)大人クリストファーの暮らすロンドンに迷い込み、再会を果たすも、、、というのが大まかな流れでした。

 

 一方で「さよならクリストファーロビン」の主人公も、同じくクリストファーロビン。しかしこちらは、「くまのプーさん」に登場するクリストファーのモデルになった実在の人物、クリストファー・ロビン・ミルンのお話です。こちらは前半が、彼の父親A・A・ミルンがどのようにして「くまのプーさん」を生み出したかのお話。後半が、プーさんの世界的ヒットによって期せずして大スターになってしまったクリストファーロビンの苦悩を描くという構成になっています。

 

 つまり、ディズニー版は物語上のクリストファーロビンが大人になった話、イギリス版は実在のクリストファーロビンの半生を脚色した話で、フィクションとリアルの両面から一人の人物を描いた映画がほぼ同時に公開されているのです。

 

 「プーと大人に~」は興行的に成功しているので長く映画館でかかるでしょうし、「さよなら~」はレンタル可能なのでいつでも見ることができます。後者は非常に映像が美しいのでスクリーンで見られないのが残念ではありますが、両者を比較しながら見ると「演出や物語の切り取り方でこうも違うお話が作られるのか!」といつもと違った映画体験ができますよ。

 

クリストファーロビン、ディズニーから見るか?イギリスから見るか?

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どちらも同じ構図のカットが使われている


 

 ふざけた書き方していますが、意外とどちらを先に見るかが大事だと思います。なぜなら、

 

イギリス版はかなりツラく、ディズニー版はとても柔らかく、作ってあるからです。

 

 

「プーと大人に~」は子供の心を忘れたクリストファーロビンがプー達と交流することで、再び想像力を取り戻すという、王道の右肩上がりに幸せになっていく物語なのに対して、

 

「さよなら~」は、父と息子の絆の結晶としてプーさんが生まれ、幸せになったものの、モデルとなったクリストファーロビンが全世界に自分の存在を知られてしまったことで地獄のような目に遭うという、幸せバロメーターが逆V字を描く物語なのです。

 

 つまり、メイキング的なきつい部分を先に知ってから見るか、フィクションを見てから「あぁ、実はこういう裏があったのか」と一種の答え合わせ的にリアルを見るかの2択が可能です。

 

 ちなみに私のお勧めは、断然フィクション→リアルです。実際は「さよなら」の方を見てから「プーと大人」を見たのですが、

 

「こんな風に言ってるけど実際は地獄だったんだぜ」

「この橋は実際はこんなエピソードがあるんだぜ」

 

などと、フィクションの裏にあるクリストファーロビンに感情移入してしまって、なかなかフラットな目線で映画を楽しむことができなかったからです。

 何よりも、ディズニー版はあまりにも映像がどんよりしすぎている、、、!

 

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なんでみんな悲しそうな顔してんだよっ

肝心のプーさんと仲間たちですら、ビジュアルが初公開されたときネットをざわつかせたように、ボロボロになって陰鬱な顔をしています。そんな彼らがひたすらにライフハック的な発言を繰り返すのですからなかなか受け入れがたい。

「お前らそんなこと言ってるけど、実在のクリストファーロビンがお前らのせいでどんな目にあったか知ってるのか!」などと、頼まれてもいないのに本物の肩を持ってしまってディズニーが作品に込めたメッセージを素直に受け取れなくなってしまいました。

 

そんなこんなで、2作品を同時に楽しむことができるチャンスを逃さずに、ぜひ劇場で見てはいかがでしょうか。