現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「獣になれない私たち」 第一話 感想・レビュー

f:id:agumon360:20181010233257j:plain

 もう、ガッキーなんて呼べない!

 

 お久しぶりです。忙しいだのなんだの言い訳してしばらくブログほったらかしにしていたのですが、ドラマを見ていても感想をどこにも吐き出せない環境にうずうず。マグマがふつふつと溜まってきた状況で起きたこの大地震に、およそ5ヶ月ぶり(!)に重い腰をあげました。というより、あげざるを得なかったです。

 

 「mother」、「ゆとりですがなにか」、そして昨年は「anone」を監督した水田伸夫さんがメインディレクター(いつもの調子でいくなら全話監督するのかな?)を務め、脚本は「逃げ恥」で大ブレイク後に「アンナチュラル」を生み出した野木亜紀子さん。

 「逃げ恥」以来のガッキーとのタッグということで注目を浴びていたのはもちろん、共演者も「泣き虫しょったん」こと松田龍平、「おっさんずラブ」でのはるたんが女子たちの脳内に棲み着いて離れない田中圭、「本丸から逃げ出させたら右に出るものはいない」黒木華、「パシフィックリムのあの人だ!!」菊地凛子など、全員いわずもがなすぎて後半ふざけましたが、名優ぞろいすぎて、もはや映画の領域です。

 むしろ映画好きの視点からすると新垣結衣の方がテレビドラマの人というイメージが強くて、「映画俳優の中にガッキーが囲まれとる!」くらいのテンションで見ていたんですが、いやぁ、すごかった。

 

 新垣結衣が年齢とともに経験してきた様々な悩みや葛藤などが全て役として表現されていましたね。

 

自分を檻の中に閉じ込めて心がすり減っていく

 ファーストシーン、なんてことないようなタップ(ビールを主に提供する店なのでしょうか?現実にこういうとこあるらしいです)で向かいの客のヒールを軽く笑う田中圭と、アキラ(新垣結衣)の会話から始まります。「アンナチュラル」を思い出すような、いきなり登場人物たちの輪の中に放り込まれる手法に、「あ、ぼーっと見てると置いてかれるやつだ」と思い出し、意外と軽いノリのお話なのかしら、なんて思いながらガッキーの働くアプリ開発会社での朝のルーティンを見る。

 コーヒーを入れ、ロッカーの鍵を開け、返された指示書を直して印刷。ドラマの初回でよく使われる、場面紹介のシーンかと思いきや、この動き一つ一つに血が通ってるというか、もう何日もやってきた感じが演出されていて見ていて面白い。そして社長の九十九がやってくると、その全ての行動が九十九のためになされていたことが明らかになり、「あぁ!なるほど!」と頭の中のツボが押される快感。

 ここで少なからず頭をよぎったのは、「なんだ、いつものガッキードラマか」でした。それはつまり、

 常に周りの人のことを気づかい、色んなことを押し付けられたりしながらも全部笑顔で頑張る、生き生きとしていて可愛い女の子が活躍するストーリー

このイメージキャラクターとしての「ガッキー」がドラマの主人公ということです。フジテレビのドラマに出ていた初期の頃はまさしくこういうキャラクターでしたし、「逃げ恥」のみくりさんもこの類型の中にいる(合理性の強い自立した女性ではありましたが)人物でした。

 

 しかし、だんだん様子がおかしくなっていきます。前半部分で作られた「ガッキー」というキャラクターは、松田龍平が冒頭で、「笑顔が張り付いたようなキモイやつ」と形容していますが、それが鮮やかにひっくり返されていくのです。

 

 営業アシスタントとして雇われたはずなのに、仕事をしない周りの人たちがやらなかったことが全て回ってくる。

 

 恋人の母親が結婚への期待を過度に押し付けてきて連絡を絶やさない。

 

 取引相手がアキラのかわいらしさに浮かれて手を出そうとしてくる。

 

 これら一つ一つはドラマのできごととしては非常に取りに足らないような、小さなことです。しかしこれを私たちの「ガッキー」が演じるから説得力がある。もしくは、そう見えるように新垣結衣が演じ、緻密に演出されている。

 一般人の私たちが共感できるような、「声を上げられないプレッシャー」にがんじがらめにされ、何か一つ問題をクリアしても携帯が鳴り、次の押しつけが待っている。

 飛び降り自殺してしまおうかとして踏み出せなかった駅のホームのシーンは、本当に素晴らしかったですよね。

 携帯があるせいで、通知の一つ一つがチクチクと神経をつついてくる。どこに行っても逃げ場がないのなら、いっそ死んでしまおう。

 でも、死んでしまえるような、一歩踏み出す勇気も出せない。松田龍平が言っていましたね、「馬鹿になったら楽なのにね」と。アキラはホームから飛び降りるほどの馬鹿にもなれない、嫌な事を嫌だといって反抗していくような剥き出しの人間にもなれない。それが「獣になれない」ということの意味(まだ一部でしょうが)なのかもしれませんね。

 そんな風にして、心がすり減っていく日常を壊したのは、「メタモルフォーゼ」というブランド?を身にまとう菊池凛子演じるクレハの広告でした。

 

服を変えて「獣になれる」のか?

 

 アキラが恋人の母に送ったLINE、「いつか二人暮らしすると思って、部屋は引っ越さないでおいた」、「もう2回目の更新日が来る」、「どうしたらいいんでしょうね」、「だから、服とブーツを買いました」

 

 これは、恋人との決別をほぼ決意したことを意味するのでしょう。

 

 まずは横暴な九十九への反抗を始めることで、「獣になる」ための一歩を、つまり、従来の「ガッキー」からの脱却を図るのでした。

 

 全然まとまっておりませんが、これが初見での感想になります。九十九が原節子好きなのはなんでもやってくれる理想の女性像を小津安二郎の映画でよく演じてたからだ、とかそういう小ネタもちょいちょいスパイスが利いてて説得力もあって書きたいのですし、伏線→回収、もしくは伏線(ミスリード)→回収のリズムがあまりにも気持ちがよい構成など、色々見所は満載だと思います。

 

 何はともあれ、冬クールもかなり楽しみな3ヶ月になることが予想できそうですね!

日テレドラマ

 ※備忘録も兼ねての早速の追記

 ラストのタップでのシーン。水田演出独特の、淡くて緑がかったカラーコレクションに浮かぶ新垣結衣の表情は本当に熟成した大人の女性という顔をしていて最高でしたね。

 

けもなれ速報レビューはこちら!

第1話 第2話  第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話

 


けもなれ考察はこちら!