現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「あなたには帰る家がある 第五話」感想・レビュー

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 もう、すごいですね。「シグナル」と同じく、見終わったあとこんな感想しか浮かびませんでした。ブログに書くためにドラマを見ているわけじゃないにせよ、ブログを通して色々な人の考えを聞かせてもらうことが楽しみになっているだけに「これではマズい!」ということで頑張って書いていきます。

 

感想:いや、来週最終回じゃないよね!?!?

 

 とにかく密度が濃すぎる。そして今でさえドラマの半分しか終わっていない事に驚きしかなく、ここからさらにどう盛り上げて行くのかが楽しみで仕方がないです。ざっとあげていけば、

 

・真弓は心の底から秀明を許せているわけではない

・綾子はまったく諦める気がない(家の購入によりむしろ過熱)

・一番傷ついているのは太郎なのかもしれない

・佐藤家の娘、れいながこれからキーになっていく

 

 この4点が新しく第5話で提示され、今後の布石となっています。

考えてみれば、浮気自体は3話くらいで終わっているんですよね。ここからはもう「壊れた家族関係」の修復と「理想の家族への欲望」の実現という2点に絞られてひたすらドラマが展開しています。そして今回はまさしく「太郎回」。今までは強権的な夫というイメージが強かったキャラクターですが、さらにもう一段階深堀りされました。

 

太郎にとって「家を買う」とは何か?

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ただの強権的夫ではない

 それは秀明と家を契約する手続きのシーンに現れていました。あのシーン、目線のやりとりだけであの場にいた全ての人の心情を表現するという恐ろしいシーンでしたね。ああいう目線だけの心理戦って、ヒッチコックタランティーノなどがよく使ったサスペンス映画の手法で、テレビではあんまり見られない演出だと思います。それを重要な場面で使ったところが今のTBSドラマのクオリティの証明にもなっているんだなあと感心したのですが、それはともかく、一番ドキッとしたのは契約書に判子を押す時の太郎のセリフ。

 

「俺は家を買うぞぉ!!」

 

冷静な太郎がこのドラマを通じて、ほぼ初めて感情をむき出しにしました。何がすごいって、この「家を買う」という行為は太郎にとっては最も「夫的行為」(こんな言葉があるのか知りませんが)なんですよね。おそらく今住んでいる家は両親の実家で、教師というそこまで高収入なわけでもない職業に就きながらコツコツとお金を貯めてようやく「自分の家」を手に入れることができる状況なわけです。それは太郎にとっては、男性性の確立とイコールになっているのでしょう。つまり、太郎は単なる「妻より上の立場にある夫」という立場にこだわっているわけではなく、その立場を確固たるものにすることによって、「理想の男性像と自分を一致させる」ことが目的だったわけです。それがマイホームの購入によって達成される。そんな風に、男として重大なちょうどその時に妻に浮気されたらどうなるか。

意外な形で繰り返された第三話の構造

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地獄蕎麦(これより恐ろしい場面がこの後展開されるとは、、、)

 私が最も驚いたのは、太郎がジョギング帰りの真弓を詰めた場面です。心なしか、太郎が泣いているように見えたのです。あれほど観察眼が鋭く、妻の浮気を示す様々な状況証拠が出てきているにも関わらず、太郎はあの場面まで綾子の浮気が事実だと確信していなかったのだと思います。確信していなかったというより、認めたくなかったと言うべきか。これは第3話で真弓が「99%クロでも信じたかった」と言った場面と全く同じです。太郎でさえあれほどの証拠が揃い、「99%クロ」の状態であっても妻の浮気を認めなかった。それは真弓にとっては「女性としての敗北」を意味しましたが、太郎にとっては「男性としての自分の否定」にまで繋がります。

 この両者の違いが何を意味するかというと、浮気によって与えられた傷の克服方法が決定的に異なるということです。真弓で言えば、「綾子に女性としての自分が負けた」わけですから、綾子を見返せば心の傷は少しは癒される。つまり報復を向ける対象は少なくとも存在する訳です。しかし太郎の場合、「徹底的に損なわれた男性性の回復」をしなければならない。それは秀明に復讐すれば良いわけでも、綾子を罵倒すれば良いわけでもありません。だから最後の場面で太郎はタクシーに乗ったのでしょう。あの場には報復の対象となってもいいはずの秀明と綾子の2人が揃っていたわけですから、復讐すればいいだけの簡単な話だったらあの場面でこのドラマは終わっています。

 そして素晴らしいのは、それを説明セリフなしで理解させてしまう演出ですね。とにかくこのドラマは主要キャスト四人のお芝居がうまい。玉木宏中谷美紀がコメディ調で暖かいホームドラマの要素を担っておきながら、木村多江とユースケの2人がこのドラマの深い裏の部分を演じてバランスを取っている。(太郎が真弓の本心をズバズバ言い当てていくのは、このドラマにおいて太郎が真弓にとってのサタンの役割を果たしているからでしょう)ほぼ四人だけでこのドラマは進行していきますが、そのアンサンブルがとにかくすごい。これだけの密度のお芝居を整理して、さらに増幅する監督の技量はハンパじゃないと思います。

 今週は映画ネタなしだと思いますが(どなたか気付いていれば教えて!)、目線のお芝居などはヒッチコックに通ずるところがあるなあと思いました。これは監督さんの経験でそうなっているだけだと思いますが。

 というわけで、これから話がどこに向かっていくのか、金曜日が待ち遠しいですね。