現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「シグナル 第五話」感想・レビュー

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 今さっきTverでの追っかけ再生を見終え、興奮冷めやらぬ中でこのレビューを書いております。「シグナル」第5話、圧倒的に面白い!!連ドラにおいて物語全体のターニングポイントとなる中間地点をこうも映画的な演出で魅せてくれるとは、関テレのドラマ制作陣のレベルの高さがわかりますね。

 

感想:未来なんて知るもんじゃない

 

 これにつきます。私も自身もよく、「なぜ未来人は地球上に存在しないのか?」という問いについて考えた事がありますが、未来と過去が繋がったら、この「シグナル」のように悲劇があまりにも多く生み出されてしまうから、未来人が自主的に過去との連絡を断つようにしているのだと思います。しかし、今回はすごかった。「犯人は郵便受けから情報を得ていたと思われます」という三枝にとっては過去に支障をきたさない最小限の情報だったはずのこの言葉で、何人もの人生を狂わせてしまった。このバタフライエフェクトがどのように起こったのかは来週に譲られていましたが、なんと言う想像力。こんなことになってしまったら、未来から過去に対して何一つ信用して情報を受け渡す事ができない。ヘタしたら自分の身に何か降り掛かるかもしれないのですから。

 

舞台装置にリアリティを持たせる映画的演出

 第5話を演出されていたのは、内片輝ディレクターです。「CRISIS」の鈴木ディレクターとコンビを組んでいますが、1話や2話、そして5話と、主要な回は内山Dが担当していたのでこの方がドラマ全体のチーフ監督なのでしょう。とにかく映画的な演出がうまい。一番印象的だったのは、会議室で三枝が殴られたあとのシーン。プロジェクターの光に照らされながら三枝が煩悶する。その動きに合わせてゆらめく、犯人とされる工藤の影。これは映画館で見たら相当美しい場面になっていたはずです。

 後は、ラストの無線通話の直前シーン。90年代のヒットソング(きょんきょんでしょうか?一発で判断できませんでした、、、)がむなしく響き渡る中自分の責任に苛まされる大山。テレビドラマに特有の説明セリフなどは一切なく、明るい歌声と大山の表情の対位法だけで文脈を読み取らせる演出。切ないシーンなのに、なんだか重厚な雰囲気が漂う素晴らしいシーンだったと思います。

 こんな風にして、時折映画的な、映像で魅せる演出が見られましたが、これはただ単に映画っぽいドラマを作りたいという意識からきているものではなく、恐ろしくバランスが取りづらい本作に説得力を持たせるためだと思われます。

 物語のキーとなるのは、やはり「なぜか時を越えてつながる無線機」です。これがなぜ繋がるのか?に関しては多分明かされないと思います。ヒッチコックがよく使った「マクガフィン」というやつですね。わかりやすい例で言うと、「敵国のスパイが重要な軍事機密を握った。それをなんとかして取り返せ!」というプロットにおける「重要な軍事機密」がこの物語のマクガフィンです。物語は「重要な軍事機密」をなんとか取り返すために駆け引きが行われて動きますが、実はこの機密がなんであるかは、物語を加速させるための装置にすぎないのでそこまで重要じゃなくても、極端に言えば明かされなくても機能するではないか、という考え方があります。「シグナル」内で言えば、「なぜ無線機が過去と繋がるのか?」の疑問に対して、「大山の執念が未来と過去を結びつけた」とか、「特殊な技術がどうたら」とか言われても、そこまで話に影響はないですよね。ここでさらに意味性を持たせて物語内で大きな機能を持たせることもできますが、それをやったらこのドラマの脚本家さんを大尊敬します。(マクガフィンに関しては、時を見てちゃんと紹介しますね)

 本筋に戻りまして、この「無線機」というマジックアイテムのおかげで、ヘタするとこの物語に説得力がなくなってしまうと思うんです。過去を変えられるスーパーアイテムが出てきてしまうと、刑事ドラマの根幹がぶっ壊れますから。しかし、リアリティのある演出を徹底する事で、このマジックアイテムがストンと現実感を持った無線機として輪郭を持つ。この絶妙なバランスを取るために映画的演出が取り入れられているのではないかと思います。

 

 こんな感じで、中間ポイントを挟んでさらにさらに面白くなっていく「シグナル」。来週も楽しみで仕方がないです!!