現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「アベンジャーズ インフィニティウォー」まさかのヒーロー群像劇!主人公サノスの指パッチンの元ネタは何か?続編で描かれるものとは?

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 アメリカでの週末興行収入が「スターウォーズエピソード7」を超えて歴代最高を記録した「アベンジャーズ インフィニティーウォー」。上映時間2時間半という、大ヒットを狙う上では有利とは言えない上映時間(1つのスクリーンで流すなら、2.5時間の映画より90分の映画の方が多く回数かけられますからね)ながらも圧倒的な数字を残したアベンジャーズ最新作ですが、私は運良く前夜祭上映のチケットが取れたので1日だけ早く鑑賞することができました。

 上映終了後、劇場は絶望に包まれていました。前夜祭上映ということもあり、MCの方が上映前に入って「盛り上がってるかーい!!」→「イェーーイ!!」みたいなお祭りムードで映画を見ていたので、その落差たるや。言葉を失って呆然とする人、ただ頭を抱えて動かない人、うすら笑いを浮かべながら席を立つ人。私は映画館があんな地獄絵図になったのを見たことがありませんでした。まさかのアベンジャーズ崩壊。「ガチ全滅」と宣伝文句で謳われていたのである程度の覚悟はしていましたが、それをはるかに超えてくる絶望感を私たちに与えるとは。

 このアベンジャーズ最新作に関して、様々な考察がなされています。やはり一番多いのは「ヒーローが最後に負ける衝撃」や、「主人公がアベンジャーズじゃなくてサノスだった」という驚きに関してのものが多いです。私もその点に関してはかなりびっくりしたのですが、それ以上にこの「インフィニティウォー」が、「ヒーローたちの群像劇」として撮られていることに面白さを感じました。意外とこの「群像劇」的な点について触れている感想が少ないので、そこを中心に書いて行きたいと思います。

 

60名を超えるキャラクターをどう描くか?

 

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 IWで最も製作者たちの頭を悩ませたであろうことは、とにかく登場人物が多いことだと思います。なにせマーベルシネマティックユニバースの10周年記念作品として、またMCUの集大成として、作風も舞台もバラエティに富む今までの作品全てをまとめなければならないのですから、これは至難の技だったでしょう。世界観的に言うのであれば、「シビルウォー後の世界を、ガーディアンズオブザギャラクシー的なノリの良さとブラックパンサーの地平を合体させて描いた」のが今作と言え、ミニマムではキャプテンアメリカの肉弾戦から、マックスではドクター・ストレンジの時空間移動までを一つの世界観として違和感なく提示できている時点でルッソ兄弟の手腕は恐ろしいものです。

 その手法として用いられているのは、「ヒーローのグルーピング」と「グルーピングのシャッフル」です。例えば、IWの冒頭はこういうグルーピングがなされていました。

・マイティソーとガーディアンズオブギャラクシー

・ハルクとアイアンマン、ドクター・ストレンジ(その後スパイダーマン合流)

・ヴィジョンとワンダ

・キャプテンアメリカとナターシャ(後ヴィジョン組に合流)

・サノス

サノスだけ単独行動ですが、だいたいこんな感じで、4〜5つの話が平行して描かれています。これは「スターウォーズ 帝国の逆襲」をさらに極端にした編集法と言えるでしょう。それが後半には、こう変化します。

・マイティソーとロケット、グルート(斧を取りに行く)

・アイアンマンとスパイダーマン、ストレンジ(サノスの宇宙船)

・クィルとガモーラとドラックスとネビュラ(コレクターの元へ石を取りに行く)

・キャプテンアメリカ、ヴィジョン、ワンダ、ハルク、ブラックパンサー

・サノス

これはアイアンマンがキャプテンアメリカに電話したあとの変化です。シビルウォーでの対立を超えて再びアベンジャーズが結集するかと思いきや、トニーとピーターとストレンジは宇宙に飛ばされます。こうしてサノスのインフィニティーストーンの収集を阻む「宇宙組」と、地球に存在するストーンを防衛する「地球組」に大別され、終盤ではそれがアッセンブリしてこう変化します。

・マイティソー、ロケット、キャップ、ヴィジョン、ワンダ、ハルク、ブラックパンサー、サノス(地球組)

・アイアンマン、スパイディー、ストレンジ、クィル、ドラックス、ネビュラ(宇宙組)

このように様々な登場人物が出てきては別れ、くっつき、ミックスされ、を繰り返しているうちに最終的には大きく2つに別れ、そしてサノスの「指パッチン」を迎えるわけです。それは極論を言うなれば「地球組」と「宇宙組」を「全宇宙組」の一つにまとめて抹消するという、地理的に大きく離れた二者を無理やり結びつける行為でもあります。

 

 実はMCUの中でもこういう試みは行われています。「ガーディアンズオブギャラクシー2」がその例です。ガーディアンズでも、登場人物が多くなりすぎてしまったために、それをグルーピングすることでうまく処理していました。IWのプロデューサー陣の名前にガーディアンズの監督であるジェームズガンが入っていることからも、ルッソ兄弟は脚本を書くときに参考にしたのではないかと考えられます。

 しかしそれ以上に、あまりにもIWと構造が似ている映画を作る監督が二人います。それは、群像劇の名手ロバート・アルトマン監督とその弟子、ポール・トーマス・アンダーソン監督です。

 

孤独なヒーローとしてのサノスの描き方

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IWと実は似ている2作品

 まず、「ヒーロー群像劇」とも言えるIWに酷似しているのが、ロバート・アルトマン監督の1993年の映画「ショートカッツ」です。ロサンゼルスに住む22人(!)もの登場人物の日常を描いた群像劇となっていて、上映時間は3時間あります。アルトマンは群像劇を好んで作る監督として知られているのですが、ショートカッツはその代表作とも言えます。

 この映画の何がすごいか。登場人物22人の話は(多少のグルーピングがあるので10組くらいの話だったと思います)それぞれまったくと言っていいほど関連しないのです。なので初めに見ているときは「なんなんだこの話?」となります。しかし、それがラストのある一つのできごとで急激に結びつき、「なるほど!!!!!!」と3時間分の疑問を綺麗に解消してくれる構造になっているのです。

 その「あるできごと」とは、ロサンゼルスを襲う大地震です。この地震が、今までバラバラだった22人が初めて経験する共通の体験となり、実は全員の精神性が一つのテーマで結びついていたことが明らかになるのですが、気になる人はぜひ見てください。

 IWを監督したルッソ兄弟も、これほどまでに多くのヒーローが登場する本作をまとめる方法として、「アルトマンの群像劇を参考にした」とインタビューで語っています。

 そして本題はここです。「ショートカッツ」において、まったく無関係だった22人を結びつけた「大地震」とは何か?そう、サノスの「指パッチン」の元ネタです。

 IW自体が「サノスという中心人物を巡るヒーロー群像劇」となっていて、そのオチをつけるためにはどうしたらいいか?と考えたときに、地球と宇宙という地理的にとんでもなく離れた両者さえも結びつけてしまう「大地震」こそが、「指パッチン」だったのではないでしょうか。

 そしてIWがヒーロー群像劇として成立するのは、今までのMCU作品全てを前提としているからです。その意味で今作の予習科目は「MCUのこれまでの映画全て」という恐ろしく労力のいるものになってしまうのですが、登場人物の人となりや、バックボーンに関する説明はIWでは一切ありません。言ってみれば、過去作全てがIWのための「状況設定」的な扱いになっているので、今作のスケール感の異常さがよくわかります。

 

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印象的なラストの表情

 もう一つ、サノスの描き方で酷似している作品は、ロバートアルトマンの助監督を勤めたこともあるポール・トーマス・アンダーソン監督の「ゼアウィルビーブラッド」。石油利権を巡って息子や兄弟を利用しながら増長していく男を描いたダニエル=デイ・ルイス主演のドラマです。このおおまかなプロットだけでも映画を見た方はピンときたかと思いますが、この「自分の野望を実現して幸せになればなるほど結果として不幸になっていく」構造は、今作のサノスと同じですね。実はこういうプロットって「グレートギャツビー型」と呼ばれていて、「市民ケーン」や「ソーシャルネットワーク」でも使われていますが、まさかそれをヒーロー映画の悪役に適用するとは、、、、

 サノスが一面的な悪役ではなく、きちんとした思想や哲学を持って行動していることがきっちり描かれ、インフィニティーストーンを手に入れるたびに自分の大切な何かを失っていく。そして、夢にまでみた全生物半分を死滅させたはずが、ラストに映るサノスの表情は驚くほど「充実していない」。「あれ、俺ほんとはこんなことしたかったんだっけ?」と疑問すら抱いているかのようです。自分の正義を実行するためにサノスは行動し、そして一人になった。「ゼアウィルビーブラッド」は日本語に訳すと「やがて血に染まる」という意味になりますが、この作品も主人公が自分が信じた石油事業を独善的に実行していくことで成功し、しかしやがて一人になって終わります。ラストのダニエル=デイ・ルイスの虚無に溢れた表情は見ものです(その年のアカデミー主演男優賞に輝いています)。このような、人間的に悩み、ある種の虚無感さえ感じさせてしまった悪役はMCUでも稀有な存在だし、だからこそアベンジャーズのひとつの集大成であるIWの敵となれたのでしょう。

 

サミュエル・L・ジャクソンにまつわる謎の流行

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 少し脇道にそれますが、今回のエンドロール後のサプライズで出演したニック・フューリー役のサミュエル・L・ジャクソンがまた例のいじりを受けていましたね。

 

「Motherfu.....」

 

日本語に訳すと「くそっ」くらいの意味にされていますが、アメリカではFワードという、この言葉が連発されるだけで映画の対象年齢が上がる禁句です。これがサミュエル叔父貴の代名詞というか、彼は映画俳優史上最もこの言葉を発した俳優とされています。主にタランティーノのせいで。

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我らがサミュエル叔父貴

 とにかくこの言葉をサミュエル・L・ジャクソンが言わないとなんだかむず痒い。タランティーノ映画でひたすらにFワードを発する彼の姿を見ているだけに、サミュエル叔父貴=Fワードのイメージが全世界的についています。

 しかし、昨年公開された「キングコング 髑髏島の巨神」で、まさかの「Fワードいじり」が行われました。

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Fワード言ったら即アウト選手権

 この作品でサミュエル・L・ジャクソンが演じたのは、ベトナム戦争上がりのガチガチの兵士。もういつFワードを口走ってもおかしくない役柄なんですが、いつまでたっても言わない。それがなんだか面白くなっているうちに、この役が最大の見せ場を迎えます。

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コングと対峙する叔父貴

 仲間を殺された憎きキングコングと対峙するこの場面。サミュエル叔父貴の顔がアップになって、「おお!ついにくるぞ!!!!」と観客が身構え、

「Motherfu....」

ドスーン(コングがサミュエル・L・ジャクソンを踏み潰す音)

 

まさかのFワード封じ!!!正直これがキングコング最大の見せ場となっていました。

 

 そして、今作でもまさかのFワード封じが行われていましたね。言いかけのところでサラーっと砂になっていく。しばらくこのいじりは続くんじゃないでしょうか。

 

来年公開の「アベンジャーズ4」で描かれるものは?

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トニーとロジャースの和解がメインとなる?

 もともとは「アベンジャーズ  インフィニティウォーPart1」とPart2として一年刻みでの公開が予定されていた本作。ところが途中でPart1が取れ、今のところタイトルは未定です。(上映時間が3時間になるという噂もあります、、、)

 やはり最大の伏線は、シビルウォーから仲違いしたままとなっているアイアンマンことトニースタークと、キャプテンアメリカ=スティーブロジャースの和解でしょう。この二人がタッグを組んだとき、アベンジャーズが真の力を発揮する。

 また、来年公開のアベンジャーズも引きつづきルッソ兄弟がメガホンをとることから現実社会の問題を取り扱った作品になることが予想されます。ルッソ兄弟はこれまでに、

 

・キャプテンアメリカ ウィンターソルジャー

→テロリストに対する無差別空爆問題。潜在的なテロを防ぐために空爆で無関係な人を巻き込むことは許されるのか?

 

・キャプテンアメリカ シビルウォー

→9・11後のアメリカがどこに向かうべきだったのか?(強大な力を持つヒーローとしてのアメリカ像)

 

・アベンジャーズ インフィニティウォー

→多様化する「正義」の意味はどこにあるのか?

目の前の一人を救済する正義(アベンジャーズ)と、生物の繁栄のために半数を犠牲にすることで残り半分を救済する正義(サノス)の衝突

 

と、考えてみるとかなりヘビーな問題をヒーロー映画を通して描いてきました。

 そして、「アベンジャーズ4」までに公開されるMCU作品を並べてみると、

・アントマン&ザ・ワスプ

・キャプテンマーベル

の二本しかないことがわかります。ニックフューリーが最後に通信を残したのがキャプテンマーベル(通信先として出てきた紋章は彼女のものです)ということを考えると、彼女がアベンジャーズを救済することになるのだと思います。

 それは現代的な文脈に沿って考えるならば、「女性の解放運動」となるでしょう。

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最近公開されたキャプテンマーベルのコンセプトアート

 マーベル初の女性ヒーローが先頭に立ってアベンジャーズを救う姿を描くことで、私たちに何を見せてくれるのか?それがとても楽しみですし、あれほど絶望的な状況になったヒーローをどうやって救うことができるのかも期待が膨らみますね。

 

 というわけで、これが私の見た「アベンジャーズ インフィニティウォー」でした。