現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「あなたには帰る家がある 第四話」感想・レビュー

f:id:agumon360:20180421174457j:plain

 昨日、母がこのドラマを初めて見たという話を聞き、「頼むから父と見ないでくれ」と心で叫んでいるところに「とても面白かった」というどうにでもとれる感想がぶち込まれ、なんと反応していいのかわからなくなりました。このドラマ、視聴者層はやっぱり40代くらいの女性が多いのですが、一体どうやって見ているのでしょうか。私はなぜか金曜の夜だけリアルタイムで見れないことが多いのでTver視聴がメインなのですが、お茶の間リアルタイムはまさしく地獄を生み出しているのでは。とにかく今回は演出がキレッキレでしたね。「あな家」のホラー&サスペンス的な部分を特に抽出した見事な見せ方でした。

 

感想:真弓、綾子のフィールドで戦っちゃダメだ!!!!!!!

 

 前回の「地獄BBQ」では真弓にしてやられた格好となった綾子。今回はその綾子の逆襲がメインとなっていましたね。私は先週の次回予告を見た感じついに太郎に浮気相手がバレる太郎回になるかと思っていましたが、秀明・真弓夫妻の関係性の回復を今週で挟んでからの太郎襲来となるみたいです。初回でもそうでしたが、冷めきった夫婦の愛の回復を見届けさせてからの裏切り再発、今回でいえば夫婦間の信頼の回復をさせてからの崩壊と、佐藤家側の体勢が完全に整ってから攻撃が開始されるこのリズムがとてもスリリングですよね。主人公側が負傷したまま敵と戦っても面白くないですから。さて、あらすじを。

 

あらすじ

 ついに浮気が真弓(中谷美紀)にばれ、信頼回復に努めようと家事などに奮闘する秀明(玉木宏)。綾子(木村多江)との関係を完全に切る、と約束する秀明だったが、綾子による謎の「地獄トルティーヤ」に見舞われ彼の心は揺れる。一方真弓は太郎(ユースケサンタマリア)に気落ちした様子を責められ、「浮気される方にも責任がある」と言われたことでさらに傷つく。度重なる心労から真弓は体調を崩すが、母からの「自分が傷ついたことを認めてもいい」という言葉を受けて、真弓を気遣う秀明との関係を再び築きはじめるのだった。

 

「地獄トルティーヤ」の変来たる

f:id:agumon360:20180505120538p:plain

俺はこんな訳のわからないものを巻いている場合ではない!

 前回の「地獄BBQ」に続いて、今週は「地獄トルティーヤ」会が開催されました。なんかもう、構図が笑っちゃいますよね。この露面がツヤツヤと光る美しいプールサイドでの逢瀬、関係を解消したい秀明側の苦悩、そんな最高にサスペンスの道具が揃った状況でトルティーヤを持ってくる綾子。なんのギャップだ。さらに別れ際に「マディソン郡の橋」っぽいBGMと演出を持ってくる今週の映画小ネタコーナー。今までは小道具として実物が出てきたり、セリフや状況のオマージュなどが見られましたが、ついにシーン自体にまで映画ネタを被せてくるようになりましたね。多分、元ネタはこれです。

 


- Francesca Decision -

 

 玉木宏は完全にクリント・イーストウッド(前の車の超渋い男性)になりきってます。そういえば初回に同じイーストウッド主演の「荒野の用心棒」見てた!!!秀明はイーストウッドが大好きなんですかね。私も好きです。というか男でイーストウッドをかっこいいと思わない人はいないんじゃないでしょうか(私見です)。でもこういう風に、現実でも劇的な場面であればあるほど、映画とかアニメのオタクの人って「あ、この状況あの映画のあのシーンにそっくりじゃないか!!」って思ったりしちゃうんですよね。「風立ちぬ」の二郎が大地震で町中が火に包まれる中戦闘機の妄想を見るシーンあったじゃないですか、あんな感じです。

 こういう風にして、「あな家」では毎回趣向をこらした映画ネタがぶちこまれていきますが、その使い方が毎回うまい。笑えるものから、話の強烈なフックになるものまでバラエティに富んでいて、見ているこっちも絶対ちゃんと見つけて拾おうという気になります。

 

母性の綾子vs女性性の真弓

f:id:agumon360:20180505120545p:plain

 今週のラストは、大量のメンチカツを職場に差し入れするという衝撃のミサイルをぶち込まれた真弓が、綾子の家に乗り込むという展開でした。そこで真弓と綾子の「対秀明観」の違いが明確になりましたね。

 真弓が浮気されて一番傷ついたのは何か。それは綾子に女性としての自分が敗北したと思ったことでした。若い女の方が女性性がそりゃありますから多少の納得は行くものの、自分より年上の女と浮気していたとなるとそれは完全なる敗北。それに傷ついて体調を崩したりしていたのでした。だから真弓が綾子に対して「勝っている」と言ったのは、自分と秀明との信頼関係に関することやパートナーとしてちゃんと見てもらえるようになったという「女性としての横の繋がり」に関すること。

 それに対しての綾子が答えたのは、「秀明がかわいそう」。野菜の切り方から食器の洗い方に至るまで、自分が妻として、もっと踏み込んだ見方をすれば、秀明に対する母性を持った存在として優れているという考え方でした。これは太郎とその家族に対しての接し方からも明らかですね。おいしい料理を作って、家事を完璧にして夫の帰りを待っている。そんな「完璧な妻」としての自分を誇りに思っているからこそ、そこに秀明が惚れてくれたのだと真弓に勝利宣言をする。

 この両者の考え方はどちらも間違ってないと思います。そのどちらに対しても秀明はちゃんと惹かれているわけですから。すごくかしこまった見方を提示するならば、

真弓(=現代的なパートナー性の強い夫婦像)vs綾子(=旧来的な奉仕関係のある夫婦像)

この二つの妻の戦いと見ることもできます。ただの女vs女よりも、こうした大きく異なる価値観の違いの衝突があるとすれば、ここまでこの作品が面白くなるのもうなずけると思います。

f:id:agumon360:20180505120556p:plain
f:id:agumon360:20180505120600p:plain
綾子の料理は「生生しく」、真弓の料理は「淡白」

 それは二人の料理にもよく現れていたんだなと今更ながら気づきました。やたらと料理の場面がこのドラマ出てくるんですよね。綾子は何かをこねたり、生物を切ったりと、素材から作っていくのが多いことに対して、真弓は既製品をチンしたり、メンチカツなど生肉から作るものであっても揚げる場面しか映さなかったりなど、おそらく意識的に対比づけをしているのだと思います。こういう細かい部分にまで目が行くのは、話の筋が滑らかで余白の部分にまで想像を行き渡らせてくれるしっかりした演出がされているおかげですね。

 

 そんなわけで、来週はどんな「地獄」が展開されるのか。そして太郎の逆襲とはどんなものなのか。「あな家」、面白いです。