現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

【DTM×初心者】音楽経験0の初心者がDTM始めてオリジナル楽曲MVを作成するまで #2

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#2 秋葉来たる

 DTM企画をぶち上げるやいなや、急に方向転換して映画やドラマのレビューを投稿し始めるという私の動向を見て、「こいつ、諦めたな?」といぶかしんだ方もいるのではないだろうか。私を甘く見ないでいたきたい。頭の中には常にミュージックが鳴り響き、Netflixでアメリカのラッパーたちのドキュメンタリー(「Rapture」)を見てイメトレは万全。気分的にはもうグラミー賞にノミネートされている。ブルーノ・マーズが私の才能を見て泣き顔でRTする様子がありありと目に浮かぶようではないか。

 

 そんな和製ブルーノは秋葉原の地に降り立っていた。数日間、ネットの波に果敢に挑んでいた天才ヒップホッパーこと私は、「もう無理!わかんない!」と早々に悲鳴を上げ、一番簡単な「お店のお兄さんに聞く」という実力行使に出たのである。彼の足もとには、冬場には視界を遮ることしか能のないサングラスが叩き割られて粉々になっている。ブルーノは形から入るタイプだった。機材もそれなりに揃えたい。そしてたどり着いた土地が秋葉原。かの地はアイドルの聖地であるとともに、機械の聖地でもあるのだ。自作PCのパーツや映画の撮影機材が揃っていることは知っていたが、DTMのシステムまで揃えられるとは知らなかった。そして、私が訪れた店がここである。

 

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 ソフマップ秋葉原3号館。この4階に「クリエイターズランド」という、名前を聞いただけで私のちょろいクリエイターズ魂を打ち震わせる創造的フロアがあるという。そこにはDTM向けのキーボードや音声ソフト、マイクなど、ありとあらゆる機材が揃ったワンダーランドなのだ。仕事終わりの午後7時、閉店が1時間後に迫る中、私はクリエイターズランドに入国した。

 

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f:id:agumon360:20180403171215j:plain(画像は拾い物です)

 初めてセレクトショップを訪れた時に自分を襲った場違い感を思い出してほしい。もしくは、ラーメン二郎に初めて並んでまったく導線がわからなかった時のことを。私がとらわれたのは、そんな感覚だ。つまり、あまりに専門性が高すぎて怖くなって逃げ出したくなったのだ。シンセサイザーやDJが使ってるようなボタンがいっぱいある装置や(名前すら知らない)、高級そうなスピーカーが堂々と並ぶ中、音楽的教養が中3で止まっている(高校のとき音楽は選択授業だったのだ)ブルーノ・マーズは阻害された。彼ができることは、腹を打つように流れている重低音のリズムに合わせてズンドコ拍子を刻むくらいしかなかった。

 しばらくリズムをキメていると、店員さんと目が合った。店員さんはすぐさま目をそらした。いけない、このままでは何の金銭的利益も生まない陽気な若者として処理されてしまう。私は決死の思いで声をかけた。

 「あのう、すみません、、、私何もわからないんですけど、、、」

 マジで第一声はこれだった。ワタシナニモヤテナイヨと防衛線を事前に敷いておくことで、第一印象からしてマイナスであろう店員さんをこれ以上がっかりさせることはなくなる。その後、音楽の知識が皆無なこと、だけど一生懸命頑張りたいことなどを伝えた。グラミー賞の件については一切触れなかった。お互い、あの場に存在したブルーノのことは見て見ぬふりをすることで意見が合致したのだ。

 そして、その段階であれば必要なのはmidiキーボードとオーディオインターフェイスだということが発覚した。打ち込み用のソフトは初心者であればMac内臓のgarage bandで事足りるそうだ。厄介だったのがオーディオインターフェイスで、「外部から取り入れたアナログな電気信号をデジタルに変換してきれいな音のままMacに伝える役割を果たす」と優しく説明を受けたが、何の話をしているのかさっぱりわからなかった。「とりあえずこれがあれば音がよくなるんですか?」と蚊の鳴くような声で尋ねてみたところ、「いくつかの外部音源をミックスすることもできる」と私を突き放す答えが返ってきた。「いくつかの外部音源」とは、複数人での演奏時を想定したシチュエーションだ。いまさらになって音楽に目覚めようとしている20歳そこそこの若者に、こんな遊興に付き合ってくれる音楽的友人はまずいない。ここで私は反撃に転じた。「これ、映画の音撮りとかで使うミキサーみたいなもんですよね?」そう、自分が知っている映画の領域に引き込むことで、相手の主導権を奪いにいったのだ。狙い通りだった。店員さんの顔は曇った。そして会話は途切れ、私のオーディオインターフェイスへの理解は暗礁に乗り上げた。私は店員さんにひどく申し訳ない気持ちでいっぱいになり、「とりあえずこれがあれば音がよくなるんだな」と無理やり納得した。

 

そして購入へ

 店員さんとの圧倒的なコミュニケーション不足を経て、私はおすすめのmidiキーボードとオーディオインターフェイスを選んでもらった。合計で3万円いかないくらい。初期投資としてはなかなかお手軽ではないだろうか。そして、会計をしようとして財布を開いた瞬間だった。

 

「あ!!!俺今なんも払えねえんだ!すみません店員さん!俺今日無理です!」

 

 このエピソードが展開されている時間軸は私が財布を発見したその日、つまり、キャッシュもクレジットもすべてが止められている状態のところだ。私はケーブル一本に対してさえも支払い能力が失われた状態で上客ヅラして店内を闊歩していたわけである。

 そんなこんなで、とりあえずクレカが戻ってくるまで置いておいてもらう、という約束を交わして私は手ぶらでソフマップを後にした。DTMの王者としての第一歩を繰り出した私は、あっけなく後退を迫られることになったのである。

 そして今日、ついに新しいクレジットが家に届いたので、やっと機材を購入しに行けることになった。私の戦いが、ついに始まろうとしている。