現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

【脚本コンクール】大伴昌司賞受賞者に嫉妬する

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 今月3日発売の月刊シナリオ5月号にて、今年の大伴昌司賞の最終選考結果が発表されていました。

 え?月刊シナリオってなに?

 簡単に説明しますと、同じ会社の人でさえもドラマや映画セクションの人でないとその存在すら知らない、もしくは、読んでるということを告げると「えらいねー」と軽んじられた言葉を投げかけられる月刊誌が月刊シナリオです(違う)。

 もとい、劇場用映画の脚本を毎月2〜3本掲載し、脚本家さんのインタビューも載っている、MARQUEEの脚本家版みたいな(わからないタイプの雑誌にわからない表現を重ねる愚行)雑誌が月刊シナリオです。

 これが毎月3日発売に対し、15日前後に出るのが月刊ドラマで、そのクールごとのドラマの脚本がこれまた2〜3本掲載されているのです。興味ない人はまったく手に取ることがない類いの本でしょうし、普通の本屋にはまず置いてないので存在の認知度が低いのもある程度は仕方がないのでしょう。

 ちょうどテレビや映画館でやっている最新の脚本が読めるということも魅力としてありますが、私のような脚本家志望にとってみるとその目的はもう一つ別のところにあります。

 

 それが、脚本コンクールです。

 

 映画だったら城戸賞や表題の大伴賞(新人シナリオコンクール)、ドラマだったらヤングシナリオ大賞(フジテレビ主催)や創作ドラマ大賞(NHK主催)、テレビ朝日新人シナリオ大賞など、プロの登竜門となる脚本コンクールが毎年開催されていて、各誌にはその募集要項、審査経過、大賞受賞作の掲載などがあるため、自分が投稿している作品がどこまで進めるのか、また賞を取った作品との差はどれくらいか、わくわくドキドキしながら雑誌を買う事になるわけです。

 そんなわけで、城戸賞に次ぐ大きな映画向け脚本コンクールとして名高い大伴賞の結果が載った今月号も、嬉々として買った訳ですが、開いた瞬間衝撃が!

 

受賞者が同い年、、、、!!

 

 今まで恐れていたことがついに現実になったというべきでしょう。私が結果発表の時に真っ先に見るのは受賞者のプロフィール。もっと言えば、生まれ年です。だいたいが自分の5歳以上年上、などが多かったのですが、先月結果が出たTBS連ドラ大賞の受賞が一個上でこれまた衝撃を受けたのでした。しかし、ついに同い年、しかもドラマ脚本でなく映画脚本だとは、、、、

 

 そして、先入観を避けるために選評などはすっとばして真っ先にシナリオ本文を読む。大抵の作家志望者がそうだと思うのですが、自分が書いた作品が一番面白いと思っているし、粗を探しまくってやろうという気でだいたいは読んだりします(単純に嫌なやつ)。

 

めっちゃいいやん、、、、

 昨年の受賞作とか古くさくてこぎれいにまとまっている感じが鼻について好きではなかったのですが、今回の受賞作はまさに現代をストレートに描写した、この世代の若者だからこそ書ける心情を注ぎ込めるだけぶちこんだ渾身の作品になっているのです。

 

超簡単にあらすじをまとめると、タワマンの高層階に住む金持ち一家の父、長男、次男、妻を中心に、その下層階に住む在日朝鮮人との関わりや抗争を描く青春群像劇となっているのですが、一つ一つのエピソードの密度が濃い。選評には、材料が多すぎて交通整理しきれていなかったという評価もありましたが、あの荒削りな熱量がなければこの作品は成立していなかったのではないかと思います。そして、群像劇では欠かせない、全てのエピソードを結ぶある出来事の扱い方がかなり好きです。

 作者は主に岩井俊二やロバートアルトマン(もしくはポールトーマスアンダーソン?)、それか吉田大八の「桐島、部活辞めるってよ」の影響を受けているのではと考えられますが、作品から漂ってくる空気感的に岩井俊二に最もインスパイアされているものと思われます(勝手な想像ですが)。

 

 そして、最も衝撃的だったのは、在日朝鮮人へのヘイトスピーチの問題を真っ正面から取り扱っている事。歴史的文脈とか知らんし関係ないけど、日頃のもやもやのはけ口としてヘイトをしてしまう長男、彼が在日朝鮮人の血筋である女の子に恋をすることで問題が一層複雑になっていきます。「ヘイトスピーチをしている人には韓国系の友人はいないのだろうか?」こんなことはぼんやりと考えた事はありますが、ここまでストレートに作品として昇華した人はまだ出てきていないし、現代日本映画にもあまり見られないのではないでしょうか。(井筒監督の「GO!」が昔そのテーマでやっていましたが)これを同い年の人がとんでもない熱量を持って描ききったことに嫉妬を覚えずにはいられないのです。

 

 というわけで、もう一つの側面、脚本に関してのお話でした。

 気になった方はぜひ月刊シナリオ買ってみてくださいね。