これほどまでにショッキングな政治的告発がなされた映画だとは!
試写会にて一足先に見ることができた『バイス』ですが、終映後に経験したことのないレベルで劇場がざわついていました。
本作はブッシュ政権時代の副大統領ディック・チェイニーを、クリスチャン・ベールが体型まで作り変えて演じたことで話題となった政治劇。
落ちぶれた田舎者にすぎなかったチェイニーが政治の世界に入って成り上がっていき、ついには副大統領としてブッシュを裏で操り、アメリカを支配するに至るまでを描いた政治ドラマ&ピカレスクロマン(悪役物語)です。
早くも2019年ベストテンに食い込んでくるほどの衝撃を与えた本作の見どころをご紹介!
『マネー・ショート』に挫折した全ての人へ
『バイス』の監督を務めたのは、アダム・マッケィ。
代表的な作品として、数年前のアカデミー賞作品賞にノミネートされた『マネー・ショート』があります。
と言った瞬間、『バイス』を敬遠したくなる人もいるかもしれません。
『マネー・ショート』を証券取引やリーマンショックの知識なく鑑賞したばっかりに全くもって話についていけず、ただただ解説に差し込まれるエロイお姉ちゃんだけが記憶に残った、、、
こんな思いをした人もたくさんいるでしょう。(上記は私のことです)
マシンガンのように繰り出されるセリフと超高速な展開、とにかく多い情報量に圧倒される映画の作り方は、『バイス』でも同じです。
しかし、今回は主人公のチェイニーの生い立ちから物語がスタートするため、比較的話が追いやすくなっています。
そして、『マネー・ショート』で多くの人を置き去りにした証券取引の知識のような、専門性の高い前情報も必要ありません。
最低限知っておくべきこととしては、
・イラク戦争が現代においてはどのように評価されているか(「フセイン政権打倒のためにでっち上げられた、大義のない戦争であった」という見方がもっぱらです)
・アメリカ議会には民主党(リベラル)と共和党(保守)がある
の2点をカバーしておけば大丈夫でしょう。
つまり、これを読んだ時点で『バイス』を全力で楽しめます!
伝記映画?エンタメ映画?
アダム・マッケィの作風として特徴的なのは、
物語のメインとなるドラマ部分の中に、ドキュメンタリーや実際のニュース映像などをガンガンにぶち込んでリアルとフィクションを掛け合わせるところにあります。
実際の映像があまりにも多用されるために、役者たちが演技しているパートのリアリティさえも数十倍に感じられるのです。
そんな特徴がある種の極地に達したのが本作『バイス』。
実はこの映画は明確に2つのパートに分けられていて、伝記映画としてチェイニーを追いかけたパートと、悪者がホワイトハウスを乗っ取っていく様を露悪的に描いたエンタメパートがあるのです。
そしてその境目は「あるフェイク」によって演出されているため、切り替わりを認識しずらくなっています(意図的にそうしているのだと思います)。
チェイニーの成り上がり方がそもそも人生物語として面白すぎるために伝記映画パートもかなり夢中になって見てしまうのですが、そうやって見ているとちょっとした違和感のあるシーンにぶつかるのです。
そこからが、この映画の本当の始まりです。
エンドロールが終わるまで帰ってはいけない
『カメラを止めるな!』ではありませんが、この映画が本当の意味で語りたかったことは、エンドロール後に明らかにされます。
それは映画を見ながら徐々に膨らんでいた違和感が爆発する瞬間になります。
たった1分間のシーンでしたが、その瞬間試写会場が揺らぎました。
そして映画が終わると、ざわめきの嵐。
何が起こるのかは実際に見ていただきたいのですが、アダム・マッケィが仕掛けた手法にただただお手上げ状態になりました。
というわけで、公開前のためかなり情報を抑えた紹介になりましたが、今年絶対に見るべき一本になっていることは確かな作品です。