現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

獣になれない私たち 第五話を執拗に考察する

f:id:agumon360:20181110171547p:plain

第四話に続き、それぞれのキャラクターたちの強い思いが交錯した神回となった「獣になれない私たち」第五話。

幸せなら手を叩こう

朱里と京谷の別れ

晶と恒星のキス

Welcome to the new world

など文字通り恐ろしいトピックが満載となった第五話を考察していきます。


けもなれ考察はこちら!

 

けもなれ速報レビューはこちら!

第1話 第2話  第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話  第10話

 

あらすじ

f:id:agumon360:20181110172037p:plain

晶は京谷とのことに関わる堂々めぐりを終わらせるため、朱里の家を訪れる。

家を出て行く気はないのかと聞く晶だが、朱里はまったく話を聞く様子もなく「何でも持っているあなたには私のことなんてわからない」と追い払われてしまう。

 

様々なしがらみに嫌気がさしてしまった晶は、周りに笑顔を振りまきながら自分を押し殺す昔の状態に戻ってしまった。相変わらず仕事を全振りしてくる九十九の要望に耐え、不協和音にも率先して仲介する。晶がそうすることで、周囲が平和になっていく。

 

週末の夜、ふと一人になって気持ちが抑えられなくなった晶は千春に電話をかける。そこで千春は今は寝たきりの夫克己との馴れ初めを語る。誰も手伝ってくれない夫の看病をなぜ続けられるのかと聞く晶に、「愛があるから」だと言う千春。晶の堂々巡りには誰も答えを与えてくれない。

 

一方、京谷も大きな決断を下していた。

家を出る気配を見せない朱里に対し、自分が家を出て行くことを宣言。

朱里を心配する気持ちが長年の居候を許す結果になってしまったこと、その優しさは愛ではなかったことを伝え、京谷は彼女の元を去る。

一人になってしまった朱里。ずっと共にあったオンラインゲームはサービスを終えている。画面にクレジットされる「プロデューサー 橘カイジ」の名前。

 

5tapの前で京谷からの連絡を受けた晶。どうしようか迷っているうちに、目の前の道から京谷が歩いてくる。

晶はとっさに居合わせた恒星にキスをして京谷をその場から立ち去らせる。

晶を縛り続けてきた堂々巡りはこうして終わりを迎えたのだった。

 

 

第五話登場のクラフトビールとその元ネタ

サンクスガーデン アンバーエール

f:id:agumon360:20181110175341p:plain

金曜日の夜、恒星が一人飲みしている時に頼んだもの(タップ4)

 

元ネタ:サンクトガーレン(神奈川県)

www.sanktgallenbrewery.com

似てるけれども!という改変。サンクトがサンクスになる可愛いパロディ。

 

今週はこの1つのみ。

もしかしたら飲兵衛にはさみしい回だったのかも!

 

ついに明らかになった呉羽の夫"橘カイジ"

f:id:agumon360:20181110172355p:plain

これまで少しずつ明らかにされてきた呉羽の交際0日結婚の相手、橘カイジ。

・鐘の音(金のオト?)が聞こえて結婚したこと

・上場を考えている会社を経営していること

・名前をググったら出てくる

・おそらく呉羽のブランドのパトロン(これは第四話の考察に書いています)

など様々な角度から描写されてきましたが、意外な形で画面に登場しました。

橘カイジは、朱里がずっと引きこもって遊んでいたオンラインゲーム「プテロンオンライン」のプロデューサーだったのです。

まさかすぎる名前の出し方。呆然とする朱里の後ろに置いてあるモニター。そこに「Produced by Kaiji Tachibana」の文字が出た時は声が出ました。

私がしつこく提唱してきた前澤社長説は破られましたが、オンラインゲームのクリエイターはまさしくイマドキの金持ちがやってそうな職業。

Cygamesとか、サイバーエージェントなどのベンチャー企業から独立してこういった社長になる人は結構な数いますよね。

気になるのは役者さんですが、これは今だに明らかにされておらず、、、

 

地獄の「幸せなら手を叩こう」は何を意味するのか?

f:id:agumon360:20181110171547p:plain

第五話で最も話題をさらったのは、全てに嫌気がさした晶の鼻歌「幸せなら手を叩こう」です。

周囲に笑顔を振りまいて、無茶苦茶な仕事にも嫌な顔一つしないで取り組む晶のBGMとしてこの鼻歌が流れ、時折挿入される晶の手拍子のピンショット。

ガッキーの手が綺麗だと脚本の野木亜紀子さんがツイッターで絶賛していましたが、

いや、そっちじゃない!怖いよ!

とツッコミたいです。

 

とはいえ、非常に映画的な表現がされていたこの「幸せなら手を叩こう」ですが、どんな意味が考えられるでしょう?

 

歌詞から考えてみる

あまりに有名すぎる「幸せなら手を叩こう」。意外にも歌自体は長くなんと12番まであるのですが、基本的には1番の歌詞のバリエーションで展開します。

幸せなら 手をたたこう
幸せなら 手をたたこう
幸せなら 態度でしめそうよ
ほら みんなで 手をたたこう

「手をたたこう」の部分が「足ならそう」だったり、「肩たたこう」だったりして、12番では「最初から」に歌詞が代わり、

幸せなら 最初から
幸せなら 最初から
幸せなら 態度でしめそうよ
ほら みんなで 最初から

と、何やら感慨深げなメッセージを示して終わります。

ですが今回の場合注目すべきはそこではなく、

ほら みんなで 手をたたこう

これに尽きます。

今までのけもなれを見てきた方なら、この時点で晶っぽい何かを感じ取ることができるかと思いますが、 最近やる気上昇中の上野発くんとのやりとりでヒントが出ていました。

セリフから考える

f:id:agumon360:20181110174351p:plain

取引先との契約をまとめて上野と帰る金曜日の夜。

グレた時はどうなることかと思ったと言う上野はさらにこんな言葉を発します。

上野「みんな喜んでます。平和になったって」

晶「そうだよね。私が贅沢なんだよね。こうしてるのが、みんなの平和」

 晶が「幸せなら手を叩こう」状態になって周囲に笑顔を振りまいている時、九十九クリエイティブカンパニーは非常に「平和」でした。つまり、会社の人間たちの「幸せ」を生んだのです。

平和=幸せ

こう言い換えたら、「幸せなら手を叩こう」の意味がはっきりします。

幸せとは晶の幸せではなく、周りの幸せです。

晶は他人の幸せのために、周囲に同調して手を叩いていたのです。

あの手を叩くインサート映像が気持ちを鼓舞するようなものではなく、どこか煽り立てるような、何かを強制するような印象を与えたのはそういうことなのでしょう。

 

晶が手を叩こう状態の時であれば、全て他人の言われるがままの仕事をする。

こうしていると会社はうまく回ってなんの問題もない。言われた通りに手さえ叩いていればみんなが幸せでいられる。

 

あの鼻歌は、自分を押し殺して働く晶の、自分自身への皮肉のようなものだったのかもしれません。

 

Welcome to the new worldの元ネタ

f:id:agumon360:20181110175848p:plain

かなりのインパクトを残したオンラインゲームの最終画面「Welcome to the new world」。速報レビューの方では、この言葉の意味とともに、「元となった映画を考えると今後の展開もかなり地獄」と書きました。

第二章に入る前の回の演出として「新しい世界へようこそ」という文字を入れ込んだということも十分考えられますが、やはり思い出すのはこの映画です。

 

f:id:agumon360:20181110180249j:plain

「攻殻機動隊」で知られる押井守監督による、隠れた(?)名作「アヴァロン」です。

 

 


AVALON - Trailer

予告編の音楽だけなら知っている人も多いと思います。

年末の格闘技とかで流れるオペラ調のものものしい曲です。

 

(少しあらすじ)

 

今のVR技術がさらに発展したような世界で、身体をプラグに接続することで自分自身をゲーム空間「アヴァロン」に送り込むことができるようになった未来。

アヴァロンにのめり込みすぎて帰ってこなくなるという社会問題すら起きている世界で、主人公のアッシュ(ポスターの女の子)は有名プレイヤーとして名を馳せていた。

アヴァロンにはある噂があった。一部の優れたプレイヤーだけが進むことのできる「Class SA」というフィールドがあり、そこに行った者は現実世界に戻ってこれない「未帰還者」になってしまうと。

アッシュはゲームを進めていくうちに自らものめり込んでいき、ついにClass SAにたどり着く。

しかしそこは現実世界とまるで変わらない世界。Class SAとは、Class Realのことだったのだ。アッシュは自分のいる世界がゲームの中なのか現実なのかわからなくなる。

Class Realに行って未帰還者になった者は、現実とゲームの境がなくなった世界にいることから本当に死んでしまうのではないかと自らを殺す(ゲーム上での死のことです)ことができず、そこに留まるしかなくなっていた。

Class Realで未帰還者となっていた元相棒と再会したアッシュは、彼から驚きの提案を受ける。

「俺をここで殺してくれ。殺した後姿が消えたらここはゲーム内。死んだままだったらここは現実。確かめてみよう」

この映画は、ゲームの世界と現実の世界の境目がわからなくなってしまうほど技術が発達した世界を通して、

もしかしたらアッシュが現実と思っていた世界もゲームの世界なのではないか

というところまで思考を発展させているんですね。

 

そして元ネタが出てくるのはこの映画のラスト。

あらすじの最後の部分に書いたようなことがあった後(どうなったかは映画を見てください。おすすめです)、アッシュがClass Realから帰還を果たし映画が終わったと思った瞬間、

「Welcome to Avalon」(アヴァロンへようこそ)

と、まさしくけもなれのPC画面のように表示されて映画が終わるのです。

 

つまり、映画を見ていたあなたたちの世界もアヴァロンなのかもしれませんよ?

という絶望的な問いだけをポンと置き去りにしていくんですね。押井守すごい。

 

    アヴァロンはAmazon primeにて配信中。こちらから見れます。

 

一度現実もゲームの一部なのかもしれないと疑ってしまったら、この後自分が生きていく現実も実態を失ってしまいますよね。まさしく地獄。

このように、新しい世界への門を開いてその先は全く別の世界ですよ、という演出の有名なものとして、PC画面での「Welcome to 〇〇」はあるんですね。

日テレドラマ

けもなれでも、今までの自分とはもう変わってしまった登場人物たちの行く末はきっと地獄。ますます見逃せない、、

では、今週はこんなところで!