現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

在京キー局で暗躍するテレビマンが送る、読んだら誰かにこそっと話したくなる映画・ドラマの徹底考察! ※本サイトの見解は全て筆者個人のものであり、特定の会社を利するものではありません。

「おっさんずラブ 第一話」感想・レビュー

f:id:agumon360:20180429103407j:plain つい昨日、録画していた今クール未消化だったドラマを見返していました。すごく気になってはいたもののイロモノ枠だし週5本分もレビュー書くのも体力使うからこれ以上増やすのもなあなどと言い訳して見ていなかったこの作品。「おっさんずラブ」。

 

感想:どうかしてる!!!!!!!!

 

 自分たちが持つ演技力とか演出とか撮影手法とかそういうの全部使って全力でふざけようぜ!!!っていうのがどストレートにぶつかってきて最高に面白かったです。テレビドラマで声出して笑い続けてたのなんていつ以来だろう。では、あらすじを。

 

あらすじ

 恋愛も仕事も絶妙に微妙な33歳独身・春田(はるたん・田中圭)は、通勤途中のバスで痴漢に間違われたところを尊敬する部長、黒澤武蔵(よしたん・吉田鋼太郎)に助けられる。ところがバスが揺れて「ラッキースケベ」を引き起こす。武蔵が落としたスマホを春田が拾い上げると、ロック画面には春田の写真が。それが世にも奇妙な、部長とのラブロマンスの始まりだった。

 

吉田鋼太郎よく引き受けたな!!

 

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武蔵のロック画面

 まずもう全てが部長を演じる吉田鋼太郎ワールドですよね。もうこの人がいなかったら全てが成立しない。吉田鋼太郎が築き上げてきた渋い魅力ある男というイメージを全て投げ捨てて「乙女の男」に全力投球しています。これ洋画でなんかありませんでしたっけ、、、とりあえず例えるならば、デニーロが急にエディレッドメインとのラブロマンスに出演するような感じでしょうか。日本で言うなら最近では鈴木亮平の「変態仮面」とかそういう振り切り方ですよね。にしてもまさか吉田鋼太郎がこんなことになるなんて、、、なんかもう、事故現場をずっと見せられているような感覚です。

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"できすぎな"告白シーン

 そして絶対にあげておかなければならないポイントは、「演出が全力でふざけている」ところ。このカットなんてもう「ザ・恋愛ドラマ」って感じじゃないですか。それをおっさん二人がやるだけでこうにもギャップができて笑える。

 Tver配信期間が終わってスクショできなかったんですが、このシーンの武蔵側のカメラは光がハートマークに映るフィルターを使っていて、武蔵の背後には無数の美しいハートが浮かび上がっていました。

 

パワハラにならない絶妙なバランス感覚

 

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若者の何かを取り違えているお

 これは二話の一場面なのですが、武蔵役の一番難しいところは、上司-部下の絶対的な上下関係が存在する中でいかに「パワハラ」にならずに自分の気持ちを伝えられるか、だと思うんですよ。部下的には(斜め上のベクトルに)暴走する上司に対してなかなか反対の意思表示はできませんし、下手したらパワハラです。ですがこの「するお」とか、時折見せる武蔵のしょんぼりした表情なんかを見ると、17歳の少女が吉田鋼太郎の人格の中にいるんじゃないかという「ジュマンジ」的な何かを感じてしまってパワハラとかそんな次元の話は忘れてしまうんですよね。

 また、これはいわゆるBLを極端に解釈したストーリーになっていますが、LGBTの人たちに対して嫌な表現の仕方をしているわけでは絶対ないところが素晴らしいと思います。基本的な笑いどころは、スーツを着たおっさんたちが少女漫画みたいなラブストーリーを真剣に演じるというところにあるわけですから。

 この記事を書いている時点で第二話を見ているのでこの不安は解消されたのですが、一話を見終わった時に思ったことが、「これ連ドラにできるの?」でした。吉田鋼太郎の乙女というインパクトはさすがに10週の中で薄れていくでしょうし、ギャグのパターンもその一点に絞るとなかなか限られてくる。もともとは特別ドラマでの大好評を受けて連ドラ化したとはいえ、やはり特番編成の一回きりだからこそうまくいったのでは、、と思っていたのですが、第二話のレビューに書く予定の「ある王道ドラマのパターン」を再解釈することによって10週分しっかり見せてくれようとしているように思います。

 

なぜ吉田鋼太郎は春田に恋をするのか?

 

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本当はこういう役者さんです

 ここは完全に私見なのですが、実は吉田鋼太郎世代の人が同性に恋をすることって珍しい話ではないと思うのです。もちろん、最近不倫相手役として密かにブレークしている田中圭の中性的な魅力もあるとは思うのですが、もう少し話を大きく、社会的なところまで広げてみるとよくわかります。

 そもそもLGBTという概念が日本に浸透してきたのはここ5年かそこらの話だと思います。今でこそ映画のジャンルにまでなっていますが、それ以前は「禁じられた恋」や、「異常者の恋」という扱いを受けることが多かったように思います。日本だと最近「保毛尾田保毛男」が懐かしのキャラとして再登場して大炎上したように、昔はああいう風にアイコン化される、いわゆる「特殊な」人が同性愛者であるという考えが社会的に根強かったんですね。だからこそ吉田鋼太郎世代の人たちは、自分が本当はLGBTなのにその概念自体が存在しないから、疑うこともなく普通に女性と結婚して心の中で悩み苦しんでいる。そんな例が実は結構あるそうです。そういう意味では「おっさんずラブ」はありえないコメディではなく、意外と現実に即しているんですね。

 そして春田の受け取り方も素晴らしいです。主要な男性キャストの中で唯一の「異性愛者」という立場でツッコミ役を担っているのですが、同性愛者だから否定するのではなく、「会社の上司や親友と思っていた同僚が自分のことを好きだと言ってきた」ことに動揺し、実際に思い悩んでいるのです。ここの塩梅がかなりうまくいっていると思います。

 第一話の感想は、こんな感じです。ドラマ自体の面白さがあまりに異常なのでどう感想を書くか悩んだものですが、カウンター的に社会的な目線から書いてみました。

 連続して第二話の感想もアップします。こっちはスクショ満載なので存分に楽しんだ方のレビューにしてみようかしら、、、、