現役テレビ局員の映画・ドラマ研究記

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「パシフィック・リム アップライジング」怪獣映画としての前作と、ロボット映画としての今作【感想・レビュー】

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 TOHOシネマズ日比谷のIMAXシアターにて、「パシフィック・リム アップライジング」を見てきました。Twitterのレビュー見てると賛否同じくらいって感じですが、要約すると

 

富士山!!!!!!!!

 

ってことになりますね。私も富士山関連のシーンはずっと爆笑しながら見てました。でもあれでちょうどいいんだと思います。あの縮尺だとパシリムの世界観での富士山はエベレスト並のデカさになりますが、KAIJUもイェーガーも大きいんだからそれでいいんだと思います。ヴィクも劇中でこう言ってたじゃないですか。

 

「Bigger is better」––––––大きいことは、いいことだ。

 

映画秘宝の今月の標語がこれになってます。むしろ、富士山がエベレスト級の高さじゃなくて、それでいて富士山が八王子くらいの位置にない私たちの現実の方が間違っているんじゃないかと。あまりにも堂々としすぎててそんな気がしてくるのが「パシフィック・リム アップライジング」という映画です。

では、あらすじを。

 

あらすじ

 戦いは終わりではなく、始まりだった。前作で描かれた人類(イェーガー)とKAIJUの死闘から10年が経過し、平穏が戻っていた地球に、進化を遂げたKAIJUが再び姿を現し、世界を絶望の淵へと突き落とす。よりスタイリッシュに洗練されパワーアップを果たした新世代のイェーガーに乗り込む若きパイロットたちは、迫り来るKAIJUをうちほろぼすことができるのか!?(Filmarksより)

 

作風の大きな転換をもたらした、監督交代

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  今作の監督は、パシフィック・リムをありえないほどの怪獣愛とロボット愛で日本の怪獣文化を映像化したシリーズ創設者であるギレルモ・デル・トロ(デルトトロ)監督からバトンタッチした、スティーブン・ナイト監督が務めています。もともとはアップライジングもデルトロが監督する予定だったものの、長年の宿願であった「シェイプ・オブ・ウォーター」の制作に専念するため無念の降板(それでオスカー獲ったんだからものすごい話ですが)となり、別の監督に引き継ぐことになりました。制作当初は、「パシリムをデルトロ以外の人が撮れるの?」と懐疑的な目線が多かったのですが、ナイト監督がインタビューで、最終決戦の舞台を東京にしたのはなぜ?と聞かれ、「東京は、怪獣にめっためたにぶち壊される街だからだぜ!」と回答して「こいつは本物だ」とみんなが溜飲を下げることになったエピソードが懐かしいですね。

 そして、この交代によって1と2の作風は微妙な点が変わっただけで、まったくの別物のような作品になっているのです。アップライジングの世界観と、おおまかな筋はこんなところです。

 

 2045年、10年前にKAIJUたちが襲った街は荒廃したものの、ゆるやかに復興しつつあった。かつて街を救ったイェーガーのジャンク品がストリートに出回り、違法イェーガーによる犯罪も起きる中、政府によって製造された正規のイェーガーはその取り締まりを行うなど、当初の目的からは大きく異なる用途で運用されている。そんな中、登録の無い謎のイェーガーが都市に襲来。正規のイェーガー軍に大きなダメージを与えて姿を消した。一方その裏では、中国企業無人イェーガーを全世界的に配備するプロジェクトを進めていた。しかし、KAIJUと私的にドリフトする危ない趣味を前作以降も続けていた天才科学者ガイズラー博士によって無人イェーガーにKAIJUの一部が組み込まれ、世界中の無人イェーガーが暴走してしまう。

 

ここから、もう少し展開があって最後の戦いの舞台である東京に行き着くのですが、この設定、どこかで見たことありますよね?

世界観は押井守の「機動警察パトレイバー」。そして話の筋はそのまんま「劇場版パトレイバー the movie」のものが引用されています。

デルトロが作り上げた「パシフィック・リム」は、どちらかというとゴジラウルトラマン的な、怪獣愛によって作り出された世界観が強く、KAIJU一匹一匹に見せ場というか、歌舞伎でいうところの「見栄」のような場面が用意されていましたが、今作ではKAIJUはそこまで前面に押し出されていません。その代わりに惜しげもなく表現されているのは、ナイト監督の、「ロボットアニメへの愛」です。

 

今作は「怪獣映画」ではなく、「ロボット映画」だ!

 

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セイバー・アテナ

 これは、今作の主要イェーガー4体のうちの一体、セイバー・アテナですが、公開前から話題になってはいましたが、明らかに「エヴァ弐号機」です。軽やかな動きで相手を翻弄し、カンフーキックとかを敵にお見舞いします。さらにこの機体を操るのはアメリカ帰りの日本人、マッケンユーです。

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MACKENYUことまっけんゆー

 エヴァのアスカはアメリカ帰りのドイツ人と日本人のクォーターでしたが、日本人を当て込んでいるあたり確信犯的にキャスティングしたのだと思います。映画の中の動きとか見てても、エヴァにしか見えません。いつビーストモードになるのか気になって仕方がありませんでした。しかし、フォルムはエヴァンゲリオンから借りてきていても、頭部はもう一つ別の日本アニメのロボットと瓜二つです。

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セイバー・アテナの頭部はほぼパトレイバー

 頭のうさぎのようなデザインは、パトレイバーを彷彿とさせます。ちなみに、エンドロールでセイバー・アテナのアップがあるのですが、完全にこのパトレイバーのジャケットとまったく同じ構図になっていて、そこが若干種明かし的になっているというか、ナイト監督は「パトレイバー」を実写化したかったんだなっていうのがわかるようになっています。

 それに比べて、今作のKAIJU描写は淡白といってもいいくらいです(前作が異常でしたから)。3体出てきて、あっという間に合体します。合体してからも全身を写すようなカットはあまりなく、KAIJUすげえ!となったりはあんまりしません。むしろ、機体が乗っ取られてKAIJU化する描写がむちゃくちゃかっこよく演出されているので、あくまでも興味はロボットになるのだな、と思ったりもするわけです。

 

 そんな感じで、同じ「パシフィック・リム」でも、1は「怪獣映画」、2は「ロボット映画」という風に、軸足が大きく異なっているため、前作的な怪獣の暴れまわりっぷりを期待していくと少しがっかりしてしまうかもしれません。私はパトレイバーも大好きなのでそれはそれで楽しめました。ロボットアニメを実写化するとこんな感じになるんだろうなーというワクワク感がしました。

 ストーリー的な穴とか、なぜあそこに〇〇の像が!?とか、そこは気にしません。だってパシフィックリムですもの!!!!日本的なロボットアニメとか怪獣を映画にしてドンパチやってくれるだけで2億点ですもの!!というわけで、全ては「Bigger is better」、大きいものはいいことだ。ということさえ頭に入れて、少しでも大きなスクリーンで「パシフィック・リム アップライジング」をぜひご覧ください。ここで大きな収益をあげたら、「GODZILLA」とか「キングコング」とのレジェンダリー主導のモンスターユニバースにパシフィックリムが参戦して、「ゴジラ対パシフィックリム」、「ゴジラvsモスラvsキングギドラvsイェーガー 4巨神東京に現る」とかむちゃくちゃな映画がハリウッド制作で見られるようになりますからね!!!!